村藤功
企業財務 M&A
23/09/26
今日は最初にグローカルという話をします。Think Global、Act Localという言葉です。放っておくと自分の周りしか見ないで、世界の問題を解決しようという人が出てきてしまい、それは良くないです。Think Globalというのは、世界で起こっていることをそれなりに把握しないと、自分だけではなくて自分の会社の従業員やその家族も困ったことになります。世の中で何が起こるか把握しておかないといけません。それをThink Globalと言います。だからといって世界の問題を自分で解決できるわけがない。Act Localというのは、自分はどうしよう、自分の会社をどうしようと、自分が出来るところでなんとかするということです。ということで、最初にThink Global、Act Localでいかないといけないという話をしてから今日のテーマに移ります。
まず一つ目が米中対立の話です。ソ連が崩壊して以降、アメリカが唯一の超大国でした。30数年で中国がどんどん大きくなって購買力平価でアメリカを超えました。そういう意味ではアメリカと中国が二大超大国の時代に入っています。日本はどうするべきかですが、日本は自由民主主義で、どちらかというと中国よりもアメリカの核の傘の下に入っているということもあり、アメリカの味方をするということですが、中国があまりに大きくなってしまったので、日本企業が中国を撤退することは無理です。工場だけでなくて顧客のいる市場になってしまったからです。そういう意味では中国と戦争する、中国から撤退するというのは無理です。
アメリカはデ・カップリングと言っていました。デ・カップリングというのはアメリカのサプライチェーンと中国のサプライチェーンを分離して、中国に関わらないでアメリカとその友人たちのサプライチェーンだけでやっていこうということです。それは日本企業からしてみれば中国から撤退して、アメリカを中心とするサプライチェーンのみに参加してくれという話です。ところが、日本企業は少し嫌で、EUのヨーロッパ企業も嫌で、アメリカの多国籍企業も嫌でした。アメリカに対してなかなか面と向かって嫌だと言いにくかったので、この間EUがデ・カップリングではなくて、デ・リスキリングでしょうと言ってくれたので、日本はラッキーと内心思っていました。デ・リスキングというのは、リスクをできるだけ回避しましょうという意味です。サプライチェーンを分離するというのはもう無理だということを正面から認めて、出来るだけリスクを回避するということで頑張りましょうという話になっています。
次に、AIや生成AIの話です。今、ホワイトカラーがやる仕事が段々減ってきて、生成AIで更に仕事をとられてしまうのが加速するということが起こりつつあります。今まで日本の企業では個人主義というのはあまりありませんでした。共同体で稟議制で意思決定しましょうというものでした。誰かが稟議を書いて皆で意思決定をするということで、実行するのは他の国と比べてもすごく信頼がおけるといういいところはありますが、なんだか遅い、誰が決めて責任をとらないといけないのかわからないという面もあります。生成AIでかなりの人がこれから仕事を失うということがおき始めていて、そうすると人間が仕事をし続けるためにはどうしたらいいかと、AIに負けないような付加価値を提供できる専門家にならないといけないという状況になっています。ところが今まで日本企業は3年ローテーションで何でもできる人にしましょう、銀行でいうとまず支店長を目指しましょうということをやっていました。ところが、AIに出来ないような付加価値を提供する専門家は3年では出来ません。そうすると、複線化人事と言って、今までみたいなジェネラル・マネージャー、なんでもできる人をゆっくり育てるというような話だけではなくて、AIが出来ないような付加価値を提供できる専門家を長い時間をかけて育てるというような時代にならないといけないという話になっています。
私が40年ほど前にアメリカのメロン銀行というピッツバーグの銀行で働いていた頃、人事部でなくて本人がキャリアを企画する制度は既にありました。3か月毎にオープニングジョブリストが回ってきて、もしやりたいことがあったら3年今の自分のところでやっていれば手を挙げて下さい、もし我々の方で欲しいということになれば認めますと。要するに人事じゃなくて、本人がキャリアプランを作ってそれを実行していくというのがアメリカやイギリスのキャリアプランです。ところが日本というのは、職業選択の自由、どこの会社に入ろうかというところは自由ですが、入った後のキャリアは人事が思うように決めていくため、本人がこれをやりたいと決めていくということは起こらないわけです。しかし、生成AIが導入されて付加価値を提供できる専門家を作らないといけないという話において、誰が作るのかというと人事部が本人のやりたくないことを長期間強制して専門家にするのは無理で本人が希望してならなければなりません。そういう意味では、終身雇用で一つの企業で皆がジェネラル・マネージャーをめざすのではなくて、たくさん転職してもずっと同じことをやり続けて何かの専門家になる、AIの提供できない付加価値を提供できるというよう専門家も認める人事制度がこれからは求められていくということになると思います。
日本国憲法第13条は憲法の中の最高規範と言われていますが、個人を尊重して、個人が自由に幸福を追求することが出来る。公共の福祉が妨げられない限り、個人は自由に幸福を追求していいと書かれています。ところが憲法で書いただけで実際はそうなっていません。日本は共同体主義で、個人の自由は非難されてきました。今世の中変わろうとしています。自分の幸せは、自分で追及しなければなりません。自分でどのように自分の幸福が変動してきたか、自分の価値体系はどのように出来ているかということを把握したうえで、自分のキャリアプランを自分で作っていくということが求められています。
分野: 財務会計 財務戦略 |スピーカー: 村藤功