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イノベーションのアネクドート(逸話)3:イノベーションの時間差問題1

安田聡子 イノベーション論、高度人材の国際移動

23/03/13

今日は、「イノベーションの時間差問題」というお話です。
突然ですが、最近大きな話題になっている「チャットGPT(人工知能)」をご存じですか。先日、インドの企業が「チャットGPT」をCEOに据えたというニュースが報じられて驚きました。私も実際に利用してみたのですが、面白くてハマってしまいました。

「私は大学で経営学を教えていて、学生時代は歴史学を学びました。定年退職後に私は何をしたらいいのでしょう」と質問を入力すると、まるで長年の友達が相談に乗ってくれるような感じで、例えば「本を書きましょう」「コンサルティングをしましょう」、「地域の子供の為に役に立ちましょう」など、一つ一つは月並みですけれども10個を超える様々なアドバイスが返ってきました。他にも、「カタツムリのおもてなしの方法を教えて」と入力してみると、カタツムリの生物としての特性をきちんと踏まえながら、何種類もの方法を真剣に答えてくれました。

このように、チャットGPTがイノベーションであることは間違いないわけですけれども、ネガティブな側面もたくさんあるようです。その中でも最大のネガティブな反応は、子供達から学習の機会を奪ってしまうというものです。

例えば、「人口の変化がイノベーションに及ぼす影響について論じなさい」と私がチャットGPTに命令したとすると、スラスラと高度なレポートを書いて出してくれます。大学ではレポートを提出させることが多いですが、チャットGPTが普及すると学生はレポートをチャットGPTに任せてしまい、学ぶ意欲を失ってしまう可能性があり、学生の学力低下が心配されます。

ちなみに、インターネットからのコピー&ペーストは意外と教師には簡単に見破ることができます。しかし、チャットGPTを利用された場合に、見破ることができるのかについては自信がありません。

ただ、ふとテレビが登場した1950年代末に起こった出来事が思い出されました。当時、テレビばかり見ていると人間の想像力や思考力が低下してしまうと警鐘を鳴らした人達がいました。テレビ以前の娯楽は、本を読んだりラジオを聞いたりというものだったのですが、テレビが登場するとぼんやりと眺めていても十分に楽しいため、人間の思考力や想像力が奪われて日本人の知的水準が落ちると本気で心配した人達がいたようです。
「チャットGPT」に対しても、同様の心配がなされているように感じます。しかし、本当に知的水準は低下するのでしょうか。テレビの登場から60年以上が経ちましたけれども、日本人の知的水準は低下していません。寧ろテレビを通じて様々な情報を得て我々の思考は豊かになった、と私はそう感じています。「チャットGPT」についても同じようなことが起こると私は期待しています。人工知能であるチャットGPTと対話を重ねることで、私達は自分一人で考えているときよりもたくさんの価値観、たくさんの選択肢がある事を気が付くでしょう。そのおかげで多様な観点から、深く広く物事を考え判断することが出来るのかもしれません。つまり、「チャットGPT」という人工知能と我々人間が対話を重ねることで、クリエイティビティー(創造性)が磨かれていくと私は期待しています。

しかし、どうしてテレビの弊害が心配されたり、「チャットGPT」を禁止する学校が出てきたり、革新的なものが登場した際には否定的な反応が大きくなるのでしょうか。
これについて早稲田大学の清水 洋先生が、「野生化するイノベーション」という著書の中で「イノベーションの時間差問題」と呼んでいます。イノベーションによる良い効果というのは長い時間を掛けてじわじわと普及しますが、その一方でイノベーションによる悪い影響、破壊は短期的に特定の人々に集中して起こるというのが「イノベーションの時間差問題」です。「チャットGPT」によるズルやさぼりの現象はすぐ目に見えますけれども、クリエイティビティー(創造性)が磨かれるという現象はずっと後にならないと分かりません。ですからイノベーション戦略では、この時間差問題に真剣に取り組み、普及が難しいということを覚悟しなければなりません。

では、今日のまとめです。
イノベイティブな製品、つまり非常に新しい技術や製品が登場した時には否定的な反応が起こりやすいものです。何故ならば、イノベーションによる良い効果はじわじわと時間を掛けて現れるのに対して、悪い効果は即座に出てくるためです。これを「イノベーションの時間差問題」といいます。イノベイティブな製品や知識を普及させたい場合は、これに真剣に取り組まなくてはなりません。

分野: イノベーション論 |スピーカー: 安田聡子

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