広垣光紀
マーケティング、マーケティング・リサーチ
23/03/09
今回も引き続き互酬について話をします。何か人から物を贈られたらお返しに何か贈り返さないとなんとなく気が済まないという気持ちがあるかと思います。これは別に日本に限ったことではありません。文化の違いはあまり関係なく、普遍的にどのような社会にも見られます。但し、それぞれの国や文化で独自の贈り物の儀式が生まれたり、進化したりする事もあります。
教師の日をご存知でしょうか。国によっては違う日に設定されていることもあるようですが、ユネスコによると教師の日は10月5日だそうです。しかし、この教師の日は日本では定着していません。互酬性ということから考えると、教師の日に生徒から先生にプレゼントを贈るなら、先生が逆に生徒にプレゼントを贈るというお返しをする、例えば生徒の日のような記念日を設けていれば、もしかしたらもう少し定着するかもしれませんね。
また、日本で定着しなかった別の記念日として、ボスの日と秘書の日というものがあります。これはアメリカで始まった習慣らしいのですが、こちらも昔、日本の百貨店などの業界団体が定着させようとしても、なかなか上手くいかなかったそうです。ホワイトデーのように、ボスの日に対して秘書の日としてちゃんとお返しする日も制定されていますが、問題点としてはそれぞれの日が凄く離れているということです。ボスの日が10月16日で、秘書の日が4月の最終水曜日だそうです。日本の冠婚葬祭で一般的にお返しというのは一週間から一ケ月以内と言われているそうで、あとは上司と部下という上下関係もあるので、定着が難しかったのかもしれません。
話を互酬に戻しますが、この互酬を上手く使ったマーケティングの方法が色々とあります。最も簡単な例として、スーパー等の試食コーナーがあります。本来は口に合うかどうか、美味しいかどうかというのを試しに食べてみて、買う時に判断材料にするというのが試食ですが、試食をさせてもらって負い目というか、買わなければいけないと思われることはありませんか。何か食べ物を分けてもらったり、ちょっと大げさな言い方ですが、手間を掛けて対応してもらったり、そうなると何かすこし申し訳ないという負い目から、中にはそれで買うという人もいます。
ただし、気を付けなければいけないのは、この互酬というのは義務感と感謝の気持ち、この二つから構成されているという事です。相手からこういったことをしてもらった、だから何かお返しをしないといけないという感情は義務感からくるものです。その一方で、こうしたことをしてもらったけれども、それに対して是非何かお返しをしてあげたいと考えるのは、これは感謝の気持ちです。コリヤスナコバという人とその他の2人の研究者の2007年の共同研究があります。その共同研究の中でアメリカのテキサス州のワイナリーを対象にして357人の被験者から集めたデータを基に調査した研究があります。ワイナリーから試飲やそれ以外の色々なサービスを受けた時に、ワイナリーのスタッフに対して感謝の気持ちを持った被験者の方が、義務感を持った被験者よりもその場でワインや色々な物を購入して、使った金額が多かったというものです。かつ、そのワイナリーをもう一回訪問したい、リピートしたいと希望する傾向も強く、かつポジティブな口コミを広げる傾向も強いことが分かりました。この研究から分かる事としては、小売店などにしても飲食店などにしても、接客をする店員さんというのは、お客さんに対してなんとなく買わないといけない、買わないと申し訳ないというプレッシャーというか、罪悪感を与える様な接客をしてはいけないということです。そうではなく、お客さんが「是非、何かお返しをしたい」と感謝してもらえるような接客をした方がいいという事になります。
この2007年の研究では色々工夫して、義務感と感謝の気持ち等を分けて測定するという研究をしていて、この研究で分かった事は、感謝の気持ちをお客さんが強く持つようになる時の一つの重要な要素としては、お客さんが「大体こんなものだろう」と思っているサービスよりも少し上回るようなサービスをするということだそうです。多くのお客さんはワイナリーを訪問するときにも、大体こういうサービスがあるだろうというある程度の期待水準があります。その想定を上回ったとその被験者が感じた時に、義務感ではなく、「こういうふうなサービスをしてもらったから、是非ともなにかワインの売上に貢献することで感謝の気持ちを伝えたい...」と考えるお客さんが増えたということです。今日のまとめです。今回は前回に引き続いて互酬について話をしました。互酬は人間の社会組織を円滑にするという機能があるだけではなく、様々な販売促進活動やマーケティング活動に応用が出来ます。
分野: マーケティング マーケティング・リサーチ |スピーカー: 広垣光紀