高田 仁
産学連携マネジメント、技術移転、技術経営(MOT)、アントレプレナーシップ
23/01/16
2022年7月に、福岡にとってインパクトのあるニュースがリリースされた。米国ケンブリッジに拠点を持つCIC(ケンブリッジ・イノベーション・センター)が、東京に次ぐアジア2箇所目のイノベーション・キャンパスとして、西鉄が天神地区で再開発中の"新福岡ビル(仮称)"に進出することを正式に検討するというのだ。順調に行けば、2025年春にオープン予定となる。
CICは、スタートアップの成長や既存企業のイノベーションを促進するオフィススペース("イノベーション・キャンパス"と称する)を、世界4カ国8都市で手掛けている。1999年から2021年まで、CIC入居企業がVC等から調達した金額は137億ドル(約2兆円)に達するという。
CICは、2020年にアジア初のCIC Tokyoを東京・虎ノ門にオープンさせ、コロナ禍にも関わらず順調に入居企業を増やしてきた。先日、岸田首相がスタートアップ政策に関連して視察したことでも知られている。
CIC Tokyoを訪問すると、普通のオフィス空間とは大きく異なることに驚く。ビルの2フロアが真ん中の大きな階段兼イベントスペースでつながることで上下移動が可能で、その周囲にオープンなディスカッション・スペースやガラス張りのオフィススペース、コワーキングスペース、バーを含む飲食スペースなどが入り組んでレイアウトされている。訪れるたびに、何かしらのイベントや勉強会が開催されており、共有スペースをウロウロしていると、その雰囲気を感じ取って覗いてみることができる。このような物理的距離の近さや偶然の出会い/セレンディピティの演出が、大きな特徴である。
既に200社以上が入居しており、入居企業のプレート一覧を見ると、スタートアップのみならず、大手企業や法律・特許事務所や会計事務所、ベンチャーキャピタルの社名が並ぶ。ユニークなのは、海外企業や海外政府の出先機関も多く入居し、グローバルな接点にもなっていることがわかる。
また、Venture Caféというイノベーション・コミュニティ形成のための非営利組織も設置され、毎週木曜は"Thursday Gathering"と称して、誰でも気軽に訪れて、専門分野の勉強会に参加したり起業家のピッチを聞いたりして刺激を受けたり、アルコールを飲みながら人脈を形成したりもできる。
このような場が福岡にもできることは、福岡のスタートアップ/イノベーション・エコシステム形成に大いに好影響をもたらすだろう。
次回は、CICがどのようなことを重視してイノベーション・キャンパスを運営しているか、なぜ進出先として福岡を選択したのかについて解説する。
【今回のまとめ】
米国ケンブリッジに拠点を持つCIC(ケンブリッジ・イノベーション・センター)が、東京に次ぐアジア2箇所目のイノベーション・キャンパスとして、天神の"新福岡ビル(仮称)"進出を正式検討した。福岡のイノベーション・エコシステムにとても大きなインパクトが出そうだ。
分野: 産学連携 |スピーカー: 高田 仁