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イノベーションのアネクトード(逸話)1:帆船効果

安田聡子 イノベーション論、高度人材の国際移動

23/01/30

はじめまして。安田 聡子と申します。QBSでは「産業と技術」という科目でイノベーションについて講義しています。ここでは、イノベーションという現象の不思議さや面白さを反映しているような逸話を紹介していきたいと思います。

今日は、「帆船効果」と呼ばれる現象をご紹介します。
帆船とは帆を掛けた船のことです。
まずは、イノベーションについてお話しします。イノベーションとは、新しい知識や製品サービスを生みみ出し、それを普及させることによって社会に新しい価値を提供することです。そして、そのイノベーションのプロセスには長い年月がかかっているということを意味します。今私たちが便利に使っている物は、何年も前に生まれた小さなアイデアから始まっているわけです。例えば、今話題になっている自動運転技術も、最初の開発から既に50年程が経過しています。もっと身近で細やかなイノベーションでも多くの時間がかかっています。例えば、皆さんよくご存じの「ポストイット」も接着剤の発明から製品になって売り出されるまでに10年以上の年月が経っています。このように、イノベーションとは長いプロセスで沢山の関係者が関わり合いながら進んでいくものです。決して天才の閃きから瞬時に生まれるものではありません。

キース・パビットというイギリスの高名な研究者は、「イノベーションとは、行ったり戻ったりする長い旅のようなものだ」と言っています。イノベーションが進むにつれて、その煽りを受ける企業も出てきます。例えば、今Amazonエフェクトが話題になっていますが、Amazonのような電子商取引が盛んになることで、小売店の経営が立ちゆかなくなるという問題です。新しくて便利で世の中に新しい価値をもたらす製品やサービスが誕生して普及すると、確かに我々の生活は豊かで便利になりますが、その陰では消えていく企業や産業もあります。こうした現象のことを「創造的破壊」と呼びます。

では、旧来の古い産業や既存の企業は破壊される一方で消えていくしかないのかというと、意外とそうでもありません。イノベーションが起きて新しいビジネスが誕生すると、古い産業でもイノベーションが再び活発になるという面もあります。これが今日のテーマである「帆船効果」と呼ばれるものです。

その由来は実は19世紀に遡ります。19世紀初頭に蒸気船が登場して、気象条件に左右されない輸送が可能になりました。そうすると、古い技術(当時で言う「帆船」)は無くなるだろうと皆が思っていました。ところが、蒸気船の誕生と共に帆船でも様々な技術開業や技術革新が巻き起こり、約100年帆船は生き残りました。
ラジオ番組もその1例かもしれません。20世紀のイノベーションであるテレビが一般家庭に普及したのは1960年代頃ですが、その1960年代後半にはラジオの深夜番組が始まり、独特の若者文化を作り上げました。このように、深夜番組というイノベーション(「帆船効果」)が起こり、テレビ全盛の時代にもラジオが生き残ったと言えるかもしれません。

この「帆船効果」をどのように考えるのかが少し難しい所ではないかと思います。実は「帆船効果」に対するネガティブな評価があります。古い技術と産業が延命していくことで、新しいイノベーションの普及が遅れるという厳しい批判があります。そうした批判には一理ありますが、企業経営の視点から考えると、この「帆船効果」はもっと多くのことを示唆していると私は考えます。

例えば、新技術を普及させたいと思っている若いベンチャー企業の経営者に対しては、貴方の技術が新しくて優れていても普及はそう簡単ではないかもしれないということ、古い産業でもイノベーションが起きるという警告を与えてくれるかと思います。反対に、古い技術を使っている既存の企業に対しては、新しいイノベーションが出てきても対抗策はあり得るというメッセージを発しています。ただし、そうは言ってもやはり業界全体は縮小していきますし、「帆船効果」もいつかは消えるため、やはり古い産業は対抗策を講じながらも新しい事業戦略を立てて、未来に向けて投資をすることが重要だと考えます。

では、今日のまとめです。
新しくて革新的な技術が普及しても、古い技術がすぐに消滅するとは限りません。むしろ古い産業にもイノベーションが次々と起こり、新旧の技術が併存する「帆船効果」という現象もあります。「帆船効果」は新技術の普及を阻害すると批判されることも多いのですが、その一方で古い技術を使っている企業が次々と技術革新を起こして生き残る可能性も示しています。

分野: イノベーション論 |スピーカー: 安田聡子

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