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2022年ノーベル生理学医学賞

荒木啓充 バイオ産業

22/12/28

今回は今年度のノーベル生理学・医学賞について話します。今年はノーベル生理学・医学賞はドイツのマックス・プランク進化人類学研究所というところのスウェーデン人研究者であるスバンテ・ペーボ博士が受賞しました。ペーボ博士の受賞理由が絶滅したヒト族のゲノムと人類の進化に関する発見というものです。人類学の進化生物学という分野では初のノーベル賞と言われています。

キーワードは2つあり、ヒト族と人類です。ここでいう人類というのは我々、現在生きている人類、ホモ・サピエンスを指します。ホモ・サピエンスを含めて過去に存在した人類の祖先がチンパンジーの祖先と分かれたのが600万年~700万年前と言われており、さらにそこから人類は分岐、枝分かれしてきます。ホモ・サピエンス、我々は約30万年前にアフリカに出現して、7万年前頃にアフリカから外に、中東を経て外、ヨーロッパであったりアジアであったりというように世界に広がったと言われています。一方、我々ホモ・サピエンスに最も近い親戚とされているネアンデルタール人も過去のいわゆる人類にあたりますが、ネアンデルタール人は約40万年前に現れて、その後、3万年~2万8千年前に絶滅したと言われています。つまり、我々ホモ・サピエンスとは別の人類、起源としてネアンデルタール人という人類がいたということです。

同時期に一緒に共存していた時期がありますが、それぞれの関係については分からないことが多くありました。今回の受賞のペーボ博士は、現代人の遺伝情報であるDNAとネアンデルタール人の目骨から抽出されたDNAを比較して現代人の特定の人種、具体的には非アフリカ人系なんですけれど、実はネアンデルタール人の遺伝情報が残されていることを発見しました。これは、ホモ・サピエンスとネアンデルタール人が交配したという情報証拠になりましたです。この研究は我々人類が何者か、どこから来たのかという壮大な問いに対する答えになる発見で、また、ネアンデルタール人は絶滅したと言われていましたが、その血を引く人種が現存している、その意味では絶滅はしていなかったということになります。

この発見に基づいて、現在のヒトのどの部分がネアンデルタール人の遺伝情報なのか、というがわかるようになったのですがどの遺伝子の部分がネアンデルタール人で、どこがネアンデルタール人でないということが段々と分かってきており、最近の研究でネアンデルタール人から受け継いだ遺伝子が新型コロナウイルスの感染の重症化リスクに関係があるということが報告されています。これ以外に、別の疾患でもネアンデルタール人由来ののDNA遺伝子が起因することが解明されてきました。ペーボ博士のすごいところはこの発見をしたということと、もう一つは技術的にネアンデルタール人のDNA情報の解析を可能にしたことです。数万年前のわずかな骨しか残っていませんが、そこからDNAを正確に抽出するには、非常に高度な分析や解析技術が要求されます。というのはも、その何万年もの間に色んな動物がその骨を少しかじったり、色んな微生物が骨に付着したりした場合、そういうれらの生物の遺伝情報も混じり込む可能性があります。それらを取り除いて、本当に必要なネアンデルタール人のDNAだけを取り出すという技術を開発したことも大きな研究成果となっています。

• この技術は考古学ではよく利用されていますが、実は法医学の分野でも応用されています。この技術を活用して、法医学では、何年も前に収集した事件とか事故の現場から抽出したDNAを分析出来るようにしたりなり、DNAの情報から被害者や本人犯人を特定出来るようになりました。また、これを可能にしたのが次世代シーケンサーと呼ばれる、超高速DNA情報解読装置です。この装置は今や生物学の基礎研究だけではなく、がんのゲノム診断など、医療分野でも幅広く活用されています。
したりするという技術が求められますが、今言った色んな混じり物がある中から本当に必要な遺伝情報、DNAの情報だけを取り出すという技術が法医学の分野で応用されています。これを可能にしたのが次世代シーケンサーという超高速に、また超高感度にDNA情報を解読する現代の技術です。こういった法医学の分野にかかわらず、生物学の基礎研究や癌のMRI診断等医療分野でも幅広く活用されています。ペーボ博士は実は親子でノーベル賞を受賞していて、お父さんは1982年に同じくノーベル生理学・医学賞を受賞しています。

今日のまとめです。今年度のノーベル生理学・医学賞は、ドイツのマックス・プランク進化人類学研究所のスバンテ・ペーボ博士が受賞しました。ペーボ博士の研究は我々人類が何か、どこから来たのかという問いに大きなヒントを与える研究でした。技術的には数万年前の骨からその骨に由来するDNA情報を分析・解析する技術を開発し、これを応用した技術は法医学の分野で活用されています。また、この発見で大きな役割をなしたのが最先端のDNA配列解読装置でした。我々のルーツを知るというのは大変大きなロマンがあると思います。

分野: バイオ産業 |スピーカー: 荒木啓充

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