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大学発スタートアップ促進の目標設定(その2)

高田 仁 産学連携マネジメント、技術移転、技術経営(MOT)、アントレプレナーシップ

22/11/24

前回は、岸田政権が看板政策として掲げる「新しい資本主義」で、スタートアップ企業を5年間で10倍にする目標を掲げ、そのなかで「1大学1IPO運動」が提案されていることを取り上げ、起業"数"の追求は目標として適切か?という点について考察した。今回も引き続いてこの問題について考えてみたい。

起業"数"を目標に掲げてしまうと、当然ながら無理な会社設立が増えることが懸念される。スタートアップの設立に際しては、"EXIT is everything.(出口が全て)"という言葉がある。起業の出口として株式上場やM&Aを目指すタイプか、それとも創業者のライフスタイルに合わせて徐々に事業を成長させるタイプかによって、必要な資金調達方法や求められる経営者の質が全く異なるので、とにかく起業の際には、まず「出口を明確にする」ことが重要となる。逆に、創業メンバーの起業意思や出口(EXIT)が明確でない状況で会社を設立してしまうと、資金調達や経営人材確保など、後に様々な問題を引き起こしかねない。

次に、(2)IPO(株式上場)は目標として適切か?という点について。これについては、日本のスタートアップの早期上場が課題含みであるという米国のベンチャーキャピタリストの報告を引用しながら考えてみたい。

米国のデライト・ベンチャーズの渡辺氏のブログによると、日本ではスタートアップに対して早期の上場が期待されがちで、そのため、まずは国内市場で事業をきっちり立ち上げることが求められ、上場後に海外市場を目指すという段階を踏む。ただ、いざ上場を果たして海外市場に進出しようとすると、それに必要な巨額のコストがベンチャーの収益を下げてしまい、短期的な利益を期待する投資家から嫌がられ、結果的に海外進出の道が妨げられるというのだ。

成長のための巨額の資金を投じることは、海外進出に限らず発生する。しかし、早期のIPOによって、当該スタートアップが本来目指すべき事業に必要な、大きな投資がしづらくなるというジレンマが生じるのだ。IPOは、あくまでもスタートアップの事業に必要な資金を調達する「手段」のひとつに過ぎないのだが、上場自体を目的化してしまうと、本来目指すべき成長の姿が脇に追いやられてしまう。

以上から、IPO数を政策目標に掲げたことで、本来目指すべき事業の姿に到達できなくなるリスクに注意が必要だ。

以上、(1)起業数の追求は目標として適切か?(2)IPO(株式上場)は目標として適切なのか?という点について、数値目標は「要注意」である。そもそもスタートアップが目指すイノベーションの姿や、結果的に社会にどのような価値がもたらされるのかという点を見失わずに、スタートアップ振興を図る必要がある。

【今回のまとめ】
 起業"数"やIPO(株式上場)は、スタートアップ振興政策の目標としては「要注意」である。そもそもスタートアップが目指すイノベーションの姿や、結果的に社会にどのような価値がもたらされるのかという点を見失わずに、スタートアップ振興を図るべきだ。

分野: 産学連携 |スピーカー: 高田 仁

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