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大学発スタートアップ促進の目標設定(その1)

高田 仁 産学連携マネジメント、技術移転、技術経営(MOT)、アントレプレナーシップ

22/11/23

 岸田政権は、看板政策として「新しい資本主義」を掲げている。そのなかで、スタートアップ企業を5年間で10倍にする目標を掲げ、その実行計画を策定するため、この10月に「スタートアップ育成分科会」が設置された。

 10月14日に発表された事務局資料には、「1大学1IPO運動」という言葉が掲げられて話題になった。「研究大学で1大学につき数十社起業し、1社はIPO(株式上場)を目指す」という提案である。
ここで、2つの気になる点が浮かぶ。(1)起業"数"の追求は目標として適切か?(2)IPO(株式上場)は目標として適切か?という点だ。これら、大学発スタートアップを促進する際の数値目標の妥当性について考えてみたい。

 まず、「研究大学で1大学につき数十社を起業する」という点について。これは、先ほど紹介した政府分科会のメンバーが提案しているものだ。その資料によると、大学発スタートアップは全国に3,306社あり、うち上場企業が64社あることから、「全国の大学が50社づつスタートアップをつくれば、うち1社は上場するのではないか?」という仮説になり、「そのために、日本中の研究大学で5年間集中して50社の起業を支援すべき」という政策提案に結びついているのである。

 起業"数"の追求には、既視感がある。かつて経済産業省が、2002〜2004年の3カ年で大学発ベンチャーを1,000社創出する政策を掲げたことがあった。同省の調査結果では、2002年に87社、2003年に106社、2004年に133社、2005年に149社が設立された(2005年が設立数ピーク)。しかし、2006年に起きた"ライブドア・ショック(ホリエモン事件とも呼ばれる)"の影響が響き、2009年まで急減少が続いた。当時の産学連携関係者は、この数値目標について、「急場の粗製乱造は、むしろ逆効果では?」と語っていた。

 では、当時設立された大学発ベンチャーの「質」はどうだったのか?帝国データバンクが2013年に行った調査によると、企業全般の黒字申告率が24%(国税庁データ)であるところ、大学発ベンチャーの黒字比率は55%と高かった。ただし、「大学発ベンチャーの売上の多くは政府の研究補助事業収入である(つまり、商品・サービスが完成して売上を計上したわけではない)場合もあり、数値の解釈には注意が必要」と付記されている。

 そもそも、スタートアップの起業には、魅力的な「事業機会」と、そこから価値創造を追求する「起業家」の両方が必要だ。大学発スタートアップは大学の研究成果に基づいているため、多くは基礎レベルで技術も確立されておらず、商業化に長期を要する場合も多い。加えて、そのようなアーリーな段階で将来の可能性を見出して事業化に取り組むアントレプレナーの数も十分でない。そのような状況で"数"を追求することは粗製乱造に繋がりかねない。従って、起業環境全体の整備や、アントレプレナー予備軍を社会全体で増やすことが不可欠となる。

 次回も、引き続き数を追求することについて考察し、加えてIPO(株式上場)は目標として適切か?という点についても考察したい。

【今回のまとめ】
 岸田政権は、看板政策として「新しい資本主義」を掲げた。そのなかで、スタートアップ企業を5年間で10倍にする目標を掲げ、「1大学1IPO運動」も提案されている。ただ、安易な数値目標には問題があることに注意を払う必要がある。

分野: 産学連携 |スピーカー: 高田 仁

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