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世界の食糧供給への影響②

星野裕志 国際経営、国際物流

22/06/07

前回、地球規模で生じている食糧問題は、世界的な気候変動による飼料や肥料の価格の上昇、エネルギー価格の高騰、海上輸送の運賃の上昇、世界の人口増加など様々な要因が、影響していることを説明しました。
その中でも、ウクライナは「世界の三大穀倉地帯」のひとつとも呼ばれ、ロシアと並んで穀物の世界的な輸出国です。その両国の戦争が、世界的な食糧問題をさらに深刻化させるのは避けられないと思います。

前回もご紹介させていただきましたが、QBSの修了生で三井物産の食料本部に勤務する瀧本昌平さんが、最近九州の農業関係者向けに講演された内容から、ウクライナ問題への影響に関する分析に基づいて、引き続き説明させていただきます。穀物や肥料・飼料の視点から、とても興味深い講演をされています。
ロシアとウクライナは、共に世界の主要な穀物輸出国であり、この3年間の平均で言えば、両国を合わせた輸出に占めるシェアは、世界の小麦の約38パーセント、大麦の31パーセント、とうもろこしの18パーセントのようです。そのように考えると、食糧や飼料としての畜産などの国際マーケットに与える影響は、大変に大きいと言えます。
ウクライナにおいて、とうもろこしは北部、小麦は南部のまさに戦闘地域が生産地のようです。
また今回の戦争は、当初の首都キーウ周辺の攻防から始まって、以前から紛争状態にあったロシアとの国境に近い東部とクリミア半島を含む南部が中心になってきています。
ウクライナにとって、黒海を臨むオデッサ=オデーサが、穀物の主要な積出港ですが、もちろん輸出もできない状態です。
男性を中心に戦争に従事し、また多くの国民が海外に退避せざるを得ない状況であれば、共に生産量と輸出量の激減は避けられないということでしょう。収穫した穀物や農業機械のウクライナからの略奪も報道されています。

ウクライナからのとうもろこしは、主に中国、エジプト、EU諸国に、小麦はインドネシア、バングラディシュ、フィリピンなどの開発途上国向けに輸出されていたようです。
当然これらの地域で、穀物の輸入ができないということになれば、調達ソースを他の地域に見出さざるを得なくなり、世界的な食糧供給の逼迫につながる可能性があります。
前回も、日本の小麦などの輸入のほぼ全量は、アメリカ、カナダ、オーストラリアの3カ国からと説明していましたが、これらの3国からの輸入や価格への影響も出ることになるかと思います。

瀧本さんの分析の中で、肥料と飼料の供給についての問題も、指摘をされています。
肥料について、ロシアは豊富な天然ガスと石油による窒素肥料の合成に強みを持つことから、
世界でトップの肥料の輸出国とのことです。日本も、ロシアとベラルーシの両国から、全体の25パーセントを輸入しているそうです。
2020年には、世界の肥料輸出に占めるロシアの割合が、12.5パーセントもあったことから、ロシアへの制裁で輸入ができないとなると、別の調達ソースを探すことも容易ではないでしょう。
そうなると日本の農業の生産コストも上がることになり、野菜や果物の価格も上がる可能性があります。もうひとつは、飼料の供給にも問題が生じるとのことです。
ひまわり油の生産量は、ウクライナが世界で最大、ロシアが世界2位で、両国を合わせたシェアは世界の5割以上とのことです。搾油の段階での副産物として、飼料の原料の油かすができて、その油かすやとうもろこしが畜産に必要な飼料になることを考えると、食肉の生産や価格、さらには乳製品などへの影響も出てくるとのことです。
瀧本さんは、飼料の専門家なので、面白い分析をされています。
畜産物の生産における飼料のコストは、全体の5割から6割を占めていて、乳牛なら45パーセント、鶏肉なら65パーセントとのことですから、影響は大きいといえます。

今日のまとめです。ロシアとウクライナは、共に世界の主要な穀物や肥料、飼料の輸出国です。両国の戦争の影響で、生産や輸出に大きな制約があることを考えると、世界の食糧の供給に大変な影響が生じることになります。これからこの影響が、野菜や果物などの農作物や食肉、乳製品など、様々な商品の値上げにつながる可能性があるということになります。

分野: 国際ロジスティクス 国際経営 |スピーカー: 星野裕志

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