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次世代医療基盤法②

荒木啓充 バイオ産業

22/05/03

前回は新しい法律、次世代医療基盤法を紹介しました。医療情報をデータ化してそれを開示できるという法律です。例えば、何か病気をして病院に掛かって、その後引っ越して他の病院に移ったとしても、引越し先でもきちんとデータの引継が可能になったり、データが他の患者さんの役に立ったりということが可能になった法律という話でした。

今日は次世代医療基盤法が実際どのように運用されているのか、また課題点についてお話します。次世代医療基盤法の主な登場人物は3人います。まずは医療情報取扱事業者、すなわち病院や介護事業所、健康診断を実施する地方公共団体など、医療情報を提供する側です。実際にどんな医療情報が提供されるかですが、医療に関する人の身体的な特徴に関する情報はほぼ全てと言ってよくて、身長、体重、性別、年齢はもちろん病名や症状、どういった処置、処方をされたか、どういう薬を飲んできたか、入退院歴や手術、家族病気歴、ご自身の既往歴、検査値などです。これらが医療情報取扱事業者、病院などから提供される情報です。

2番目の登場人物は、これがこの法律の一番重要な登場人物ですが、認定匿名加工医療情報作成事業者という事業者です。医療情報を匿名化する、すなわち、個人が特定できないようにするために医療情報に対して匿名加工をする企業です。個人情報の漏えいは絶対にあってはならない一方で、医療情報はちゃんと使えるような形にしないといけない。このバランスをとるのが認定匿名加工医療情報作成事業者です。この事業者は大臣認定によるもので高いレベルのセキュリティの確保など、認定要件の敷居は極めて高く、もちろん誰でもなれるものではありません。

そして最後の登場人物はこの認定事業者によって匿名された医療情報を実際に利活用する製薬企業、大学、行政などです。おさらいすると医療情報の流れとしては、病院などから認定事業者に医療情報が提供され、認定事業者はこの医療情報を匿名加工し、誰のものかわからないようにする。そして製薬会社や大学がその匿名化された医療情報を研究開発に利活用して医療の質の向上につなげるというものです。次世代医療基盤法の正式名称は「医療分野の研究開発に資するための匿名加工医療情報に関する法律」です。先ほど説明した医療情報の流れや特徴を表した法律名になっています。

この新しい法律に基づいて沢山の医療情報を活用されて医療の質はどんどん上がることが期待される一方で、運用上においてはまだまだ課題点があることも指摘されています。まず医療情報のもとになる電子カルテの普及率がまだまだ低いことです。次世代医療基盤法で取り扱うデータはいわゆるビッグデータを想定しているのでコンピュータが処理できる電子的なデータでなければいけません。電子カルテの導入が整っていない医療機関は残念ながらこれらのデータの提供はできなくなります。最近はいろんな病院で電子カルテの導入が進んでいますが、病床数の多い機関では高いものの、一般病院や一般診療全体では40%程度と言われています。コスト面等の問題から導入するのはハードルが高いようです。また、電子カルテを導入しても電子カルテサービスを提供する会社は多数あり、病院ごとに電子カルテのフォーマットが違うというのも課題の1つです。これは前回言った病院をまたいでのデータを統合する際に違うフォーマットの電子カルテからデータを抽出するという作業に一苦労するといわれています。

あとは医療情報提供者、いわゆる病院などですが、これに対して金銭的なインセンティブはあまりないことです。ただこれについては、この仕組みの意義を広く周知すること、この医療情報によって国民全体のQOL(Quality of Life) 生活の質の向上と医療費削減につながります。また、匿名化を実施する認定事業者が電子カルテの導入がまだ進んでいない病院などに対して設備運用に掛かる費用を病院側に支払うことで、インセンティブを付与する流れになりつつあります。日本の医療費は増加の一途をたどっており、国民皆保険は誰でもどこでも安い費用で高い医療を受けられる世界にまれに見る優れた医療保険システムですが、一方で高齢化社会を迎える日本の財政をひっ迫しています。次世代医療基盤法の施行によって医療情報が有効活用され、新たな治療法やより効果的な薬の開発が可能になり、医療費削減とともに国民のQOLの向上が期待されます。

今日のまとめです。次世代医療基盤法のキープレイヤーは病院などの医療情報提供事業者、医療情報を匿名加工する認定事業者、そして医療情報を実際に活用する製薬会社や大学などの研究機関です。実際の運用には課題点もあり、電子カルテの低い普及率や病院ごとに電子カルテのフォーマットが異なる点などが挙げられますが、この法律の普及によってこれらの課題が克服され、医学薬学の研究開発が進み新たな産業が創出され、結果、国民のQOLの向上が期待されます。

分野: スピーカープロフィール タグ バイオ産業 |スピーカー: 荒木啓充

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