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「現代リスクマネジメントの歴史~その起源は?2~」

平野琢 企業倫理、リスクマネジメント

22/04/07

今日は前回に続いてリスクマネジメント、これの歴史的な起源について考えていきます。前回までは、危険を想定してそれに備えるという行為はかなり昔から行われていたということをお話しました。そして現代で言うリスクマネジメントの大きな特徴は、危険を想定して備えるという行為に加えて、統計や確率論を用いている点、これが大きな違いであるという点も説明しました。今日はその統計や確率論、これがリスクマネジメントにどのように取り入れられてきたか、その歴史的な起源についてお話していきます。

危険を想定してそれに備えるという行為に確率論というものや統計が持ち込まれたのはいつからでしょうか。諸説ありますが、一番有力な説によるとそれは17世紀頃であったと言われています。この頃に確率論と損害を組み合わせた概念、つまり現代で言うリスクの概念の原型が17世紀のフランスの貴族、シュバリエ・ド・メレが数学者のパスカルにあてて、ギャンブルにおける損害確率を尋ねた書簡に見ることが出来ます。余程この方は損をされたのでしょう。但し、この方はこれについて非常に熱心に問いかけましたが、ギャンブルをそもそも止めた方がリスクが下がるという考えにはならなかったようです。

このパスカルの書簡への話はギャンブルの話ですが、この様な確率論を災害などの危険から社会を守るための活動に用いようとする取り組みも同じ17世紀には見ることが出来ます。1662年に出版された論理学に関する書籍「論理学、あるいは思考の技法」、これは俗にポール・ロワイヤル論理学と呼ばれますが、これには既に危険、危害への恐怖はその危険がどれだけ大きな被害をもたらすかという点だけではなくて、その危険や危害をもたらす出来事の起こりやすさにも比例すべきである、という指摘があります。つまり危険を想定する場合は、どんな損害を被るかという面だけではなくて、その損害を発生させる出来事がどのくらい起こりやすいのか、これも考えなければならないという現代でいうリスクマネジメントの考えの原型が導入されています。

17世紀がリスクマネジメントにとって大きな転換期になった事は分かりましたが、現代のように企業の経営にリスクマネジメントが取り込まれるようになったのはいつ頃からでしょうか。その特定は個々に見ていくと難しいかもしれませんが、一つの有力な説としては、19世紀にフランスの鉱山技師であり、また企業経営者でもあるファヨールが提唱した経営管理論の中に、このリスクマネジメントに相当する活動が企業に必要であるという記述を見ることが出来ます。このファヨールは鉱山を経営しながら実際に企業も経営していました。その中での自分が経営する企業活動、これを実際に分析してみて、企業の経営において必要不可欠な活動は何かという事を調べました。この中に火災、盗難、洪水の危険から企業や人の財産を守って、事業の安全な経営と従業員の安心感を生む機能として、企業に不可欠な行動の一つに保全活動というものを指摘しました。危険から従業員を守る、危険から企業を守るという意味において、ファヨールが言った保全活動が示す内容の一部はリスクマネジメントの機能そのものです。ファヨールの経営管理論は企業が経営にリスクマネジメントを取り組み始めたまさに萌芽期であり、最も古い事例の一つではないかと考えられます。

更に時代が経って20世紀になると、リスクマネジメントがより広範に企業経営の中に取り組まれていったという流れが見ることが出来ます。歴史的にはリスク学の中では大きく二つの流れがあると言われています。一つの流れは20世紀初頭、第一次世界大戦後のドイツに行われていた経営活動において取り組まれたと言われています。当時ドイツは第一次世界大戦に敗北し、それに伴う賠償金の支払いによって国家の経済は非常に混迷を極めていました。特に強烈なインフレです。これにさらされて、企業経営の外部環境と言われるものが非常に不安定でした。ドイツの企業はこのような時期においても存続していかなければならない。その為には先の危険をなるべく予測して、自分達が備えなければならない。まさにリスクマネジメントの活動が重要になってきました。このような文脈の中で多くの企業が経営活動の中でリスクマネジメントに取り組んでいきました。もう一つの流れはこれも20世紀始めですが、世界大恐慌の発生したアメリカであると言われています。世界大恐慌は世界の国内総生産(GDP)が推定で15%減少させたという未曽有の経済危機でした。やはりこの経済危機によりアメリカの企業も自らの存続の為により危険に対して備えなければならなくなりました。ここでアメリカの企業はどうしたかというと、自らの企業資産を守るために保険というものを合理的に利用する事を主眼としたリスクマネジメントを展開していきました。この二つの国において、経済の危機的な状況から企業を防衛する為に始まったという共通点は非常に面白いと思います。そして、これらの国で始まったリスクマネジメントは現代企業においても広く取り込まれているリスクマネジメントのモデルとかなり類似形があり、その起源であると言えます。

今日のまとめです。 歴史を紐解いてみると、現代でいうリスクマネジメントの始まりは17世紀にその起源を求めることが出来ます。また企業が経営の中にリスクマネジメントを取り込み始めたのは、19世紀末から20世紀初頭であるということが言えます。

分野: スピーカープロフィール タグ 企業倫理 経営リスクマネジメント |スピーカー: 平野琢

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