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隣の貧乏は鴨の味」に関する研究

三上聡美 産業組織心理学、社会心理学

22/02/22

今日は、「隣の貧乏は鴨の味」に関する研究をご紹介したいと思います。
「隣の貧乏は鴨の味」とは、人は他人の不幸を願うものだという例えの言葉になります。隣の家が貧乏だと美味しい鴨を食べているようないい気分になるということからきた言葉だとされています。
同様に「人の過ちが我が幸せ」、「人の不幸は蜜の味」などと表現されているものもあるようです。

人の不幸を喜ぶことはあまり良いことではないかもしれませんが、口には出せないけれどそういった経験をしたことはないでしょうか。人の不幸を喜ぶ気持ちを「シャーデンフロイデ」と言うのですが、ドイツ語で「損や不幸」を意味する"シャーデン"と「喜び」を意味する"フロイデ"の合成語だそうです。

この人の不幸を喜ぶ気持ちである「シャーデンフロイデ」は、自分と同じ位の実力があって競争関係にある人に対して起こりやすいとされています。また、自分自身が直接相手に攻撃をして苦しめてそれを喜ぶというものではなくて、自分以外の第三者や何らかの環境要因によって不幸がもたらされる場合に起こります。

例えば、一緒に仕事をしていた同僚が自分よりも先に出世した。ずっと一緒にやってきた同僚なので自分も嬉しい気持ちがありつつもどこか悔しい気持ちも持っている、そんなときに同僚が仕事でミスをしてしまうと心配する気持ちと同時にどこか嬉しいような気持ちが引き起こされたなどが一例です。

また、シャーデンフロイデは他者に対しての羨望や嫌悪といった感情を抱いている場合に起こりやすく、自尊感情が低い場合に自分より優れた人に不幸が起こると、シャーデンフロイデが起こりやすくなります。シャーデンフロイデは自分の中にだけ留めることが多い感情になりますが、時には高揚することもあるのではないでしょうか。

例えば、井戸端会議が行われる場所で、仲の良い人たちと噂話の延長で人の不幸話をするということもあるのではないかと思います。自分の内に留められることも多い人の不幸話、つまりシャーデンフロイデを人と共有することの影響について検討されている研究を今回はご紹介したいと思います。

この研究では、三部構成で作成された架空のシナリオを設定して、大学生を対象に実験が行われました。この実験参加者については、「強制群」、「シャーデンフロイデ共有なし群」、「シャーデンフロイデ共有あり群」の三つの群に分けられましたが、今回は「シャーデンフロイデ共有なし群」と「あり群」についてお話を進めます。

まず第一部では、実験参加者とAさんは共に奨学金の返還免除の対象者ではあるけれども、Aさんの方が成績が良いため、奨学金の返還免除の可能性が高いということが伝えられました。まずこの段階で自尊感情について測定しています。次に第二部で、Aさんは面接で失敗して奨学金返還免除の可能性が低くなったことが実験参加者に伝えられました。つまり、自分より有利な立場のAさんが不幸に見舞われたという設定になります。ここで奨学金返還免除の可能性が低くなったAさんに対するシャーデンフロイデの程度を測定しました。そして「シャーデンフロイデ共有なし群」には、自尊感情について再度測定を行って実験が終了となりました。
一方、「シャーデンフロイデ共有あり群」には、第三部のシナリオに参加してもらいました。第三部では、実験参加者はAさんの不幸に対する正直な喜ぶ気持ちを仲の良い友人に伝えて一緒に喜んでもらうという設定になります。そして自尊感情について再度測定を行い実験が終了となりました。

この実験の結果、シャーデンフロイデが引き起こされた後では自尊感情が高くなることがわかりました。つまり、シナリオの第二部で奨学金返還免除の対象であったAさんが面接での失敗によって、実験参加者のシャーデンフロイデが引き起こされて自尊感情が高くなる結果となったわけです。特に自分が不利となるとき、つまりシナリオ第一部での自分よりAさんの方が成績が良く、奨学金の返還免除対象となる状況において自尊感情の低さを示した人は、シャーデンフロイデを引き起こした後に自尊感情の得点が顕著に高くなったわけす。シャーデンフロイデを共有することについての実験結果としては、男性の場合において自尊感情はさらに高揚することがわかりました。一方で女性の場合は、シャーデンフロイデを共有する前後で自尊感情の差は見られない結果となりました。

ただ、井戸端会議が行われる場所は男性よりも女性の方が多いイメージがあるため、シャーデンフロイデの共有による自尊感情の変化は男性よりも女性の方が高いという結果が出ていたのですが、この研究では逆の結果となってしまいました。今後は色々な考察や研究の発展が考えられそうです。

では、今日のまとめです。
「隣の貧乏は鴨の味」という言葉があるように、口には出せないけれども人の不幸を喜ぶ気持ち、すなわち「シャーデンフロイデ」が引き起こされることがあります。「シャーデンフロイデ」は他者に対して羨望や嫌悪といった感情を抱いている場合に起こりやすく、そして自尊感情が低い場合に自分より優れた人に不幸が起こるとシャーデンフロイデが起こりやすくなります。今回はシャーデンフロイデを他者と共有することで自尊感情の変化はあるのかという研究をご紹介しました。

分野: 社会心理学・組織心理学 |スピーカー: 三上聡美

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