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「しっかり」の定義、しっかりできてますか?

松永正樹 コミュニケーション学、リーダーシップ開発、アントレプレナーシップ

22/02/28

本日は、組織の課題解決力や危機対応力に直結する、「シェアードメンタルモデル」という概念についてお話します。組織行動学でいうシェアードメンタルモデルとは、物事の構造や仕事の進め方に関する思考パターンや体系のことを指します。つまり、あるキーワードを耳にしたときにパッと思い浮かべるようなイメージ、あるいは、あるタスクに取り組むとなったときに何か特別に指示されるようなことがなければ自然と手が動く、普通の仕事の進め方のことと思って下さい。これが高い精度で共有されているチームは、いわゆる阿吽の呼吸で協働ができるようになるため、特に短時間で重要な意思決定を行わねばならない緊急時に強みを発揮します。

例えば、「この件は"ちょっと急ぎで"進めよう」とか「これは"慎重に"対応した方がいい」といったメッセージがチーム内で交わされることがありますよね。その時に、急ぎというのが一体どれくらいのスピード感をもってタスクを進めることを言っているのか、来週までに最初のアウトプットを出そうということなのか、明日なのか、それともその日の午後までなのか。そういったイメージがシェアされているかどうかということです。もちろん実際には、そういった細かいニュアンスについて、言われた側が「では、金曜日までにたたき台になるものを共有するような感じでいいですか」という確認のレスポンスを返して摺り合せをしていくかとは思います。個人として考えた場合には、そういった確認をきちんと行うこと自体、大事なコミュニケーションスキルですよね。

ただ一方で、チームで考えた場合には、そういった細かい摺り合せを毎回しなければならないのはやはりコミュニケーションコストであって、スピード感を削ぐ原因ともなるわけです。その点、シェアードメンタルモデルが高精度で共有できているチームは、仕事への取組み方やスピード感といったイメージがメンバー間で揃っているので、摺り合せに必要な時間とエネルギーが最小限で済むわけです。

シェアードメンタルモデルの重要性をよく理解しているリーダーは、2つのアプローチを通じてメンバー間のイメージの摺り合せを進めるということが知られています。1つ目は逆説的なのですが、シェアードメンタルモデルに頼らなくていいコミュニケーションをするというパターン。「ちょっと急ぎで」とか「慎重に」といった曖昧なメッセージが交わされるとそれをどう解釈するかがずれやすいので、シェアードメンタルモデルが重要になってきます。言い換えると、その曖昧性を極力少なくして誰もが同じ解釈が出来るようなメッセージを工夫しさえすればそもそもズレは生じませんので、シェアードメンタルモデルの重要性は相対的に下がるということになります。例えば、「急ぎで」と言う代わりに「今週水曜の午後1時からの会議でAとBの2つの論点について協議をしていく。そこで最終決定できるようにしよう」と言えば、求められるスピード感や完成度についてのズレは一気に小さくなります。

ちなみにこれと似たようなポイントが、実は、教育関係者の間では昔から議論されています。特に、小中学校では優秀な先生ほど、「ちゃんと」とか「しっかり」「ふつうに」といった曖昧な表現を使わずに説明をすることがよく知られています。生徒からすれば、「ちゃんとしましょう」と言われても具体的に何をどうすれば「ちゃんとした」ことになるのか分からないですよね。生徒一人ひとり、「ちゃんと」のとらえ方は全然違います。その代わりに解釈の余地が少ない、具体的な指示をする。たとえば、「背筋を伸ばして、背中を椅子の背もたれに必ずつけて座りましょう」と言うと、どんな姿勢かというのがすぐ分かるので、全員が同じ姿勢をとることができます。そういった指示の仕方をする事は、シェアードメンタルモデルに通じるところがあると思います。チームとしてシェアードメンタルモデルを確立するのが構造的に難しい場合、例えば、結成から解散まで時間がないようなときで、かつ、社内の同じ部署だけではなくて他部署や社外からのメンバーが参画するプロジェクト等だと、こういったアプローチの方がフィットしやすいと思います。具体的にメッセージを伝えて、全員がそれを共有できるようにするということです。

チーム内のイメージ共有の精度を高めるもう1つのアプローチが。日々の業務を通じてシェアードメンタルモデルをメンテナンスしていくというやり方です。この点については、アメリカ空軍特殊部隊など、特に複雑高度でかつ突発的な事態への対応が求められるチームを長年研究している、アメリカのテュレーン大学のメアリー・ウォラー教授の分析が参考になります。ウォラー教授の研究によると、特殊部隊の中にもやはりパフォーマンスの良いチームとそうでないチームあって、そこにはシェアードメンタルモデルの精度が絡んでいるとのことです。ただし、それらのチームを比較した時に、優秀なチームが緊急時に何か特別な行動をとっているかというと、実はそんなことはなかったらしいのです。

ではどこで違いが生まれるのかというと、実は緊急時ではない普段のコミュニケーションにこそ重要な鍵が潜んでいたというのがウォラー教授の発見でした。彼女が様々な業界や分野のチームを調べた結果、平凡なチームほど普段はメンバー同士のコミュニケーションが希薄かつ限定的で相互理解が浅いところがある。一方パフォーマンスが高いチームは、日頃からメンバー同士があれこれ意見交換を行って、業務に直接関係ないことも含めてお互いのことをよく知っているというパターンが見られました。そのため、後者のチームではメンバーはお互いの癖や強みや過去の経験や思考パターンを把握しているわけです。これが緊急対応時に効いてきます。時間をかけて細かく確認をとる余裕がないような時でも、あの人だったらきっとこう考えるはずだとか、あの人ならこういえばすぐ反応してくれるはずだといった信頼関係があるので、ズレを生じさせることなくチームとして精度高く連動して動くことが出来るという次第です。つまり、日頃のコミュニケーションをどうとっているかが、いざというときにすごく重要になってくるわけですね。それ無しに、事が起こったときだけいきなり阿吽の呼吸をやろうといってもそうはいかない。お互いの性格や癖をきちんと知っていないと、コミュニケーションはなかなか取りづらいということになります。

今日のまとめです。組織行動学では物事の構造や仕事の進め方に関して、チーム内で共有されているイメージのことをシェアードメンタルモデルといいます。シェアードメンタルモデルの精度が高いチームは、シンプルなメッセージでもメンバー間にズレを生じさせずに連動して動けるため、スピード感を持って高いパフォーマンスを発揮することができます。リーダーは曖昧さを廃したクリアなメッセージを心掛けると同時に、普段からチーム内で活発なコミュニケーションを交わされるようメンバーをサポートすることで、シェアードメンタルモデルの精度を高めていくことができます。

分野: リーダーシップ 対人・異文化コミュニケーション論 組織行動 |スピーカー: 松永正樹

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