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経営理念って何のため?(2)

小城武彦 経営組織論、コーポレート・ガバナンス

21/08/12

前回、「経営理念って何のためにあるのか」というお話をしました。数字だけでは割り切れない事態が起きて判断に迷った時に「経営理念」は役に立つというお話でした。

今回はそれをもう少し具体的なケースを見ながら考えたいと思います。
まず、「経営理念」を語る時に必ず登場する有名なケースをご紹介します。皆さんの中にもご存知の方もいらっしゃるかもしれません。ジョンソンエンドジョンソン社の「タイレノール事件」のケースです。

ジョンソンエンドジョンソンはアメリカの製薬メーカーですが、タイレノールというのはジョンソンエンドジョンソン社の解熱鎮痛薬で、アメリカでは大変有名なブランドです。日本でも発売されていると思います。この「タイレノール事件」は少し前の話になりますが、1982年アメリカのシカゴでドラッグストアに並んでいたタイレノールに青酸カリが混入され、それを服用したお客さまが亡くなってしまうという事故が起きました。当時、タイレノールのマーケットシェアはなんと37%で、同社の看板商品でした。それが大きな事件に巻き込まれてしまったわけです。

ジョンソンエンドジョンソン社はこれを受けて一体どういった対応をとるか、社内で協議を重ねましたが、なかなか結論が出ませんでした。もし皆さんが社長だったら、どう判断されるでしょうか。これをどう対応したらいいのかというのは非常に難しい判断ですね。

実は、当時の副社長の回想録が残っています。そこには次のようなことが書いてあります。

『私が社長室にいた時に社長は財務担当副社長に、全米のカプセルを回収するとしたら幾らかかるか計算するように指示しました。副社長はしばらくして戻ってくると「7500万ドル、でもそんなお金はどこにもない」と言いました。しばらくみんな無言でしたが、やがて一人の男がこう言いました。「でも、他にどんな手がある?もし回収せず、他にも毒入りのカプセルが残っていたら死者が出るのだ。」と。その時別の誰かが「会社の"我が信条"に従ってこの問題を考えよう」と言い出したのです。』

今出てきました"我が信条"を英語では"Credo"というのですが、これが同社の「経営理念」です。この"我が信条"は、同社のホームページにも掲載されています。そこには同社が誰にどの様な責任を負っているのかが明確に掲示してあります。

ご紹介します。四つの責任が書いてあり、そこには優先順位がついています。
1番目はお客さま、顧客に対する責任です。2番目が全社員に対する責任。3番目が地域社会、全世界に対する責任。そして最後4番目が株主です。この優先順位になっています。この会社は何よりもまずお客さまへの責任を全うすることが第一の優先順位であると社内外に宣言しています。そこで、これを受けてジョンソンエンドジョンソン社の経営陣は全品回収という経営判断を下しました。そして7500万ドル(当時の日本円で100億以上)の大金をかけて全米の全ドラッグストアから一つ残らずタイレノールを回収し、中身をチェックしました。すると、なんと3つの商品から同じ青酸カリが発見されたのです。もし彼らがこの経営判断をしていなかったら、あと3人のお客さんが亡くなった可能性があります。このジョンソンエンドジョンソン社の経営判断は、お客さまから大変な支持を受けました。彼らは回収した後すぐに1回でも開封するとそのことが分かるように安全な包装に切り替えて商品を再投入しました。その結果、一時7%まで落ちてしまったマーケットシェアが3年で取り返しました。

このケースが我々に何を示すのか。それが今日私がみなさんにお伝えしたいことです。それは経営理念の大切さに他ならないわけです。何か判断に迷ったら最後の拠り所としての「経営理念」に立ち戻ることが如何に大事かということをこのケースは示していると思います。これは企業経営の観点から言うと、経営理念に反するものはどんなに儲かっても行わないことになってきます。同時に、経営理念を守ろうとすると損失を厭わないということになります。もし、ジョンソンエンドジョンソン社が当時の経営陣が違った判断をしていたら、それは彼らの経営理念の"我が信条"の否定になってしまいます。それは言い換えると、同社の本質を損なうことになると言っても過言ではないと私は思います。会社を巡る事業環境は日々変化します。従って、会社の事業内容がそれに応じて変化することが当たり前の時代になってしまっています。その中で会社には変化しないものが実は一つあるんです。それが経営理念です。

事業は変わっても経営理念は変わらないんです。私は大学でビジネススクールに加えて、これから就活を迎える学部生にも講義をしていますが、彼らに最近次のようなことを伝えています。「会社の経営理念をよく調べよう。そこに自分が共感できるかをよく考えてください」。経営理念に共感が出来れば、入社した後、仮に会社の事業内容が変化しても、きっと彼らは充実した社会人人生が送れるのではないかと思っているからです。会社の事業が変わっても経営理念は変わらない。そういった意味で経営理念というのは会社のDNAと言っても良いと思います。

では、今日のまとめです。
2回に渡り経営理念について考えてきました。皆さんの会社の経営理念とご自身の仕事との関係を改めて見つめる機会になれば幸いです。

分野: コーポレートガバナンス |スピーカー: 小城武彦

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