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映画と文化(10):おくりびと

鈴木右文 英文法理論、コンピュータによる英語教育

21/07/27

映画と文化のシリーズ10回目で、日本映画の「おくりびと」です。

これは納棺師のお話です。最後に旅立ちを迎える、お亡くなりになった方の衣装をあらためて、お化粧を施して、最後にお見送りをするという仕掛けをする職人の方のことです。そういう商売だとは知らずに面接を受けてしまった本木雅弘扮する青年が、その仕事を行ううちに段々とその職業の美しさ、そしてその職業の大切さに気がついて、最後には仕事に誇りを持つようになっていくという話です。最後は、自分の失踪していた父親が亡くなって、商売とは関係なく、そのお見送りをするというシーンが来る話です。

なぜこの映画が世の中で有名になったかというと、最初は確かカナダのモントリオール国際映画祭でグランプリを獲って、米国アカデミー外国映画賞も獲って、大変な大騒ぎになったのを覚えている方も多いかと思います。公開されたのは2008年ですので、10年ちょっと経っています。

実は監督をされた滝田洋二郎さんは、監督さんで有名な作品というよりは、本木雅弘さん自身がこの作品を撮りたかったそうです。原作にあたるようなストーリーがあって、それにほれ込んでその方のところへ会いに行って、是非映画にさせてくれと言って断られたというエピソードがあるくらいです。ストーリーはかなり変えているようです。

監督さんを誰にしようかということになり、滝田洋二郎さんにお願いして、蓋を開けたら良い作品になっていたという話ですけれども、滝田洋二郎さんという方をご存知ない方の為に申し上げると、最初は成人映画から入った方で、一般商業映画に移ってからもどちらかというとコミカルで非常に分かり易い娯楽映画というので押してきた人です。ですので、この作品も山崎勉扮する、ものすごくとぼけたおじさんが出てきて、非常にコミカルな部分もありますが、それがあるがゆえに非常にシリアスな部分との対比というのも上手に出来ていて、私は滝田作品の中でとても成功していると思っています。ご本人は芸術作品を撮るようなタイプの監督さんとはちょっと違う方です。だからこそ、この作品が外国で賞を獲ったというのは、我々からするとやったねという部分が大きいわけです。

本木雅弘さんは役者としてもちろん有名ですが、奥さん役の広末涼子さんが、最初はこういう職業に就いたという報告を夫から受けて、「なんて汚らわしい」と言います。ところが最後には、彼女も夫の納棺師としての職業の美しさとその重要性というものに気が付いて、最後には夫は納棺師ですということを口にすることを誇りに思うようになっていくというストーリーなのですが、広末涼子さんの演技もヒットにつながったと思います。

色々な評論を読んでいると、お化粧をしたり、衣装を変えたりと丁寧な見送りをする文化というのはなかなかすごいということで、海外からも美しいという評判が書き込まれていました。それは私としても非常に誇らしい事でもありましたが、そういった特殊な日本の文化の一面を外に広めたという面もあって、海外の方々の目にとまったのだろうと思います。

海外でももちろんそれぞれに心のこもった見送り方をしていると思うのですが、いわゆる様式美が非常に独特だったということだろうと思います。どこの世界でも亡くなった方々を悼む気持ちは同じですが、ただそれを表す表し方が非常に特殊だったということでしょう。もちろん表し方の良い悪いとか上下関係はないと思っています。

当時2008年度のキネマ旬報のベストテンでも、邦画部門で第1位になった作品で、分かりやすいコミカルな部分も入っている作品がキネマ旬報のベストテンで1位になるということは非常に珍しいことです。どちらかというと映画の評論からプロとして内容の濃い、深みがある、一面分かりにくいところもあるような作品を読み解いて評価を与える人が多い、そういう評論家の人達から選ばれた、キネマ旬報の第1位としては非常に珍しい作品だったと思います。老若男女みんなが選んだ作品だったと私は思っています。そしてこの背景に現れる日本人の死生観です。死ぬ、生きる、具体的な中身は避けますが、それもよく表れていて、見ごたえのある作品だったと思います。

少し話がそれますが、海外での映画の評判を調べる時に、インターネットムービーデータベースというものがあり、英語のタイトルでDeparturesと言います。このサイトを見ますと各映画のお色気シーン、暴力シーンから飲酒するシーン、喫煙するシーン、それから怖いシーンというものがどれだけあるかということがデータになっていて、それをもとに子供にもアドバイスを与えられるという有力なサイトですので、皆さん是非参照してみてください。

今日のまとめ:
邦画の「おくりびと」、2008年公開の作品ですが、世界で認められた作品です。それがどうして認められたのかというお話をしました。皆さんももしまだでしたら、是非ご覧になってください。

分野: 異文化コミュニケーション |スピーカー: 鈴木右文

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