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アンカリングを無効化するには

松永正樹 コミュニケーション学、リーダーシップ開発、アントレプレナーシップ

21/07/15

前回、ヒトの脳のクセとして、あるテーマについて考える前に何らかの情報を示されると、例え、議論の本筋とは無関係であっても、その情報に影響を受ける「アンカリング」という現象があるとお話しました。そのため、会議で確固たる根拠が無くても、他に先駆けて言う口の早いタイプの人にみんな影響されてしまうということもご説明しました。これは、会議以外でもたくさんあります。例えば、プロの不動産業者に住宅情報を提示して、販売価格をいくらに設定するのが適当だと思うか尋ねた実験があります。この時、実験参加者はランダムに二つのグループに分けられ、一方には住宅の周辺環境や建物の築年数、設備のグレードといった客観的な情報だけを見せられます。もう一方には、それに加えて、「売り主がいくらで売りたいと思っているか」という希望価格も提示しました。そうしますと、客観的な情報だけを見せられて販売価格を見積もった業者と比べて、後者のグループは売り主の希望価格に近い価格を算定したということが判明しました。例えば、客観的な情報だけを頼りに算定したグループの平均値がある家について50万ドルとすると、売り主希望価格が100万ドルと言われた業者は平均して70~80万ドル、逆に、希望価格が20万ドルと言われた業者は30~40万ドルが適正な販売価格だと算定したのです。

資格と経験を持つプロの不動産業者ですら、素人のはずの売り主から提示された希望価格にここまで左右されてしまうというところから、アンカリングの効果の大きさをご推察いただけるのではないかと思います。言うまでもなく、議論を深めてより質の高い結論を導くためには、アンカリングはマイナスの効果をもたらしますので、出来ればコントロールしたいところです。しかし、アンカリングはもともと無意識のうちに脳が影響を受けて発生する現象なので、今自分がアンカリングを受けたようだなとか自覚することは難しいものです。

このアンカリングの効果を打ち消すことを、呪いを解くという意味で「dispel」と言います。最も効果的なdispelの方法は、そもそもdispelする必要が無い形でディスカッションを始めることです。例えば、内容が複雑で答えが一意に定まらないような難しい議論を行う時は、早い者勝ちの挙手制ではなくて全員が一旦考える時間を取って、沈思黙考してから考えを書き出したり、あるいは無記名で投票したりする。そうするとアンカリング自体が起きにくい場を作る事が出来ます。一旦紙に書いた文字は、当たり前ですけれども、その後誰が何を言おうと変化しません。まず、自分一人で考えた意見を書き出しておく。そうすると、その後例えアンカリングを受けたとしても、メモを見返す事で、「そうだ、でもこう書いてたよな」「なんでだっけ?」と本来の考えに立ち戻りがしやすくなるという事です。

アンカリングの効果は無意識のうちに機能する点が怖いのですけれども、幸いあまり長くは持続しません。そのため、これはアンカリングになりそうだと思われる意見が出されたら、そこからなるべく結論を急がないように注意をし、出来れば一旦あえて脇道に逸れる雑談をはさんだりとか、休憩をとって気分転換をしたりすると、アンカリングの効果は打ち消せるということも知られています。また、外の景色を見るという行為がすごく効果的だという研究もあったりします。ちょっと外を見るだけです。あとは立ち上がることも効果的です。だから、コーヒー休憩をとることはすごく効果的に働きます。要は、何か違う動作を挟むことによって、アンカリングに影響を受けていたものが断ち切れるようになるのです。アンカリングの効果は長くて30秒くらいと言われています。ただその30秒の間に、アンカリングされた意見に重ねて議論を始めてしまうと、どんどんどんどん錨が深く打ち込まれていきます。ですので、これは何か良くないなみたいな意見が出された時には、「ちょっとコーヒー休憩しない?」と提案したり、水を一口含んで間をとったりといったアクションを挟むと良いと思います。

逆に、会議に出席しているメンバーの中で自分が最も立場が上であるとか年次が高いとか、あるいは何かしらの理由で特に影響力が強いと思われる際には、努めて自分が他の人をアンカリングしてしまわないように注意すべきです。自分がそういう立場にあるという自覚がある時には、最初に言葉を発しないようにすると良いでしょう。実際、僕が知るある企業ではこの点を重視して、会議で何か重要な意思決定をする際には、必ず事前に上司が席を外すということをルール化しています。つまり、重要な意思決定をする時に忖度が働かないよう、上司は席を外す。それで決まった後で呼び戻されて、「こういう風になりました。よろしいですか?」「分かりました」という確認をする。

やはり会議の場に上司がいると、どうしても彼女だとか彼の意見がアンカリングを起こしやすくなりますし、仮に一言も発しなくても周囲が顔色を窺って忖度をしたりしてしまいます。なので具体的な内容を詰める話し合いの時には、現場を良く知るメンバーに一任して、その場に上司は居合わせないようにする。少なくとも、上司発のアンカリングはこれによって防ぐことが出来る事になります。逆に精神論で、アンカリングに負けないよう確固たる意志を持って自分で決めようとか、あるいは、性善説で皆が意見を述べやすいように自分だけが意見を述べたてるのは控えましょうとか呼びかけても、まあまあ効果は期待できません。この企業の様に、そもそもの仕組みとしてアンカリングが起こりにくい手順を工夫するというのは大変有効かなと思います。

今日のまとめです。人はあるテーマについて考える際に、例え無関係であっても、何らかの情報を示されるとそれに影響を受けるアンカリングが発生します。アンカリングの効果を打ち消すには、誰かが意見を述べる前に全員が自分の意見を書き出したり、あるいはアンカリングを特に起こしやすい上司が話し合いの場では席を外したりするなど、そもそもアンカリング自体が起こりにくい工夫をすることが最も効果的な方策となります。

分野: リーダーシップ 対人・異文化コミュニケーション論 組織行動 |スピーカー: 松永正樹

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