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負の集団力学

松永正樹 コミュニケーション学、リーダーシップ開発、アントレプレナーシップ

21/07/14

今回は、人が集団で課題解決に取り組む際に発生しがちなマイナスの現象についてお話します。おそらくこの番組をお聞きの方々にも思い至るものが多いかと思うのですけれども、代表的なものとして「集団圧力」「集団浅慮」、そして「社会的手抜き」といった現象があります。どれも字面がちょっとものものしいのですが、一個ずつお話していきますね。「集団圧力」または「peer pressure」と呼ばれる現象は、周囲の人々が従っている規範や多数派の意見に影響されて、自分本来の考えや行動を表現できなくなってしまう事を言います。例えば、自分以外の全員が「いいね、いいね」と賛同しているアイデアに対して、一人で反対意見を述べるのは誰しも心理的な抵抗を覚えるものです。これが「集団圧力」です。

二つ目の「集団浅慮」。英語だと「groupthink」。一人一人は優秀なはずの集団が組織として議論を重ねていくうちになぜか愚かな決断を下してしまう事を言います。集団圧力と違って、groupthinkに陥った集団では、個々のメンバーは、自分が属する集団においてよしとされる意見に対して違和感や心理的抵抗を覚えません。寧ろ、これだけ優秀な人達が同じ結論を指し示しているのだから問題が有ろうはずもないと考えて問題を見逃してしまう。そして、最後の「社会的手抜き」ないし「Freeriding」と呼ばれる現象は、自分一人だけが多少手を抜いてもどうせ全体の結果に大差あるまいと考える錯覚から生じる手抜きです。これは、まだ学校に行っていない未就学児から大人まであらゆる年代を対象に様々な実験が世界中で行われて、繰り返し実証されています。そこから得られる結論は一つで、基本的に「ヒトは手抜きをしたがる動物である」ということです。年齢や文化にほぼほぼ関係なく、です。具体的に言うと、他の面では同じ様な特徴の二つのグループを比べた場合に、グループの人数が多ければ多いほど、一人一人の努力の量は減る傾向が確認されています。

ここで、集団浅慮、Groupthinkについて一つクイズをお出ししようと思います。今から挙げる四つのタイプのうち、グループメンバーの思考に与える影響が最も大きく、それゆえに集団浅慮を引き起こしやすいのはどれでしょう?
1.他者の発言を遮って、自分の考えを声高に主張する「声が大きい」「イプ。
2.確固たる根拠が無くても、他に先駆けて自説を述べる「口が早い」タイプ。
3.表立って強い主張はしないけれど、裏で意見を広める「根回し上手」タイプ。
4.他のメンバーにとって耳当たりが良い意見を威勢よく述べる、「We are great」タイプ。
さあ、いかがでしょう?

答えは、2の「確固たる根拠が無くても、他に先駆けて自説を述べる『口が早い』タイプ」となります。その原因は、ある未知の情報について考える前に何らかの情報を示されると、それに思考が引っ張られしまう「アンカリング」と呼ばれる現象にあります。アンカーとは船の錨の事で、それが降ろされるとアンカーからなかなか離れられなくなってしまうということです。怖い事に、アンカリングは、例え、与えられた情報が本筋の議論と全く無関係と分かっているはずのものであっても、人の思考に影響を与えるという事が知られています。

アンカリングは実は数多くの研究があるのですけれども、その中でもとくに有名な、ノーベル賞受賞者のダニエル・カーネマンとエイモス・トヴァスキーという二人の研究者が行った実験を本日ご紹介します。実験の参加者は研究の会場に到着すると、まず「ルーレットを回してください」と言われます。ところがこのルーレットは仕掛けがしてあって、10か65どちらかの数字しか出ないようになっていました。次に、カーネマンとトヴァスキーはその参加者に対して、「ところで、国連加盟国に占めるアフリカ諸国の比率って何%でしょうか。」と尋ねます。すると面白い事に、ルーレットで10が出された参加者は平均して25%と答えたのに対して、65という数字を示された参加者は45%と回答しました。ここでポイントとなるのは、参加者達も頭ではルーレットの数字と国連加盟国に占めるアフリカ諸国の割合が何の関係もない事は当然理解していたはずだということです。それでも事前に何かしらの情報を示されると、人の脳はそれに影響を受けてしまう。そこがアンカーになって思考がそこからなかなか離れられなくなってしまう。これがアンカリングです。

関係ないことだって分かっているけれども、10と出たら自然とその数字に引っ張られてしまうのです。例えば、思考のパターンとして、「10じゃないよな」「アフリカはもっと多いよな」「25ぐらいかな」という微妙な形で、なぜか基準にしてしまう。このアンカリング効果の為に、口が早いタイプは集団によって非常に大きな影響力を持つ事があります。例え、根拠薄弱で適当な思い付きであろうとも、彼女ないし彼が意見を述べるとそれがアンカーになってしまって、周囲のメンバーはそれに影響を受けてしまうからです。ましてや、口の早いタイプの人が会議の中で上の立場の人間だったり、あるいは強烈なパーソナリティーを持っていたりして、もともと他の人が反論をしにくい場合は、さらに悪影響が強くなってしまいます。

今日のまとめです。人が集団で課題解決に取り組むときに発生しがちなマイナスの現象には、「集団圧力」「集団浅慮」「社会的手抜き」等があります。この中でも集団浅慮は、メンバーの中で口の早いタイプがいると誘発されやすくなります。これは議論の本筋とは無関係であっても何らかの情報を示されるとそれに影響を受けるアンカリングという現象のためです。

分野: リーダーシップ 対人・異文化コミュニケーション論 組織行動 |スピーカー: 松永正樹

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