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集合知が機能するための二つの条件

松永正樹 コミュニケーション学、リーダーシップ開発、アントレプレナーシップ

21/06/30

今回は、「集合知」、別名「群衆の知恵」と呼ばれる現象についてお話します。集合知とは、一人だけの天才が考えたアイデアよりも平凡な人々が数多く集まって意見を出し合う方が、最終的にはより良い結論に至る現象のことを言います。昔から「三人寄れば文殊の知恵」と言いますが、実は、古代ギリシャ時代からそれと同じことは経験則として言われていました。そして、80年代後半に、経済学者のトレイナーという人がジェリー・ビーンズ実験というものを行ったことで、一気に有名になりました。

この実験では、ジェリー・ビーンズという色とりどりのお菓子を、大人が一抱えするような大きな広口瓶に詰め込んで、教室の真ん中にドンと置きます。実験の参加者は、だいたい数メートル~十数メートル離れた場所から目測でジェリー・ビーンズが瓶の中にいくつ入っているかを推定します。当然、人によって推測する数は異なっていて、ぴったり正確な数を言い当てられる人はほとんどいません。しかし、ジェリー・ビーンズの数を少なく見積もる人もいれば、逆に多く見積もる人もいるので、全体を平均すると割とイイ感じの推測値に落ち着くということが実験で明らかになりました。

トレイナーがこれを論文にして発表して以来、世界中で色々な人を対象にして実験が繰り返し行われたのですけれども、参加者の方々が真面目に取り組む限り(ふざけて1粒だけとか100万とか言ったりしない限り)、回答の平均値は、毎回ほぼ±5%以内、つまり、瓶の中にビーンズが100個入っていれば、だいたい95~105個の間と非常に高い精度を示すことが知られています。この知見から、一人の天才のひらめき、つまり、誰か一人すごくジェリー・ビーンスの数を数えるのが上手い人に頼るよりも、皆で考えを出し合う方がより良い結論に近づくという集合知に着目が集まったという次第です。

但し、こうした集合知が期待通りに効力を発揮するためには、二つの条件があるということも知られています。一つは、充分多くの人が話し合いに参加をすること。集合知が機能するのは、正解よりも少なく数を見積もる人の意見とより多く見積もる人の意見とが相殺されることによって正解に近い所に平均値が落ち着くところにポイントがあると先ほど申し上げました。しかし、話し合いに参加する人数が少ないと、極端な意見を述べる、いわゆる声が大きい人の意見が大きな影響力を持ってしまうので、平均値もそれに引きずられてしまいます。一方で、参加人数は多ければ、そうした極端な意見よりも全体の意見の方が勝るようになります。

そして、集合知が効力を発揮するにはもう一つ条件があるのですが、何だと思いますか? これは結構意外かもしれません。答えは、一人ひとりの参加者が、お互いに相談「しない」ことです。正確には、色々話し合いをすることそのものは決して悪いわけでは無いのですけれども、最終的に結論を出す段階になったら一人ひとりの参加者が他のメンバーとは関係なく、いわば、ラーメン店の一蘭のブースのように、決める時は一人で決める。さらに、そこで出された意見を集計する時にも誰がどんな意見を出したかは誰にも分からないように、匿名性を持たせた形にするというのがポイントになります。

これは、たくさんの人が参加した方がいいというのと同じで、結局、誰かの意見に引っ張られたりしないようにするためです。この意義を示した実験として、アメリカのビジネススクールに通う学生に対して、アメリカを訪れる観光客を増やすアイデアを考える課題に取り組ませた実験があります。参加者は二つのグループいずれかに振り分けられ、一方は4~5人ずつが一緒になって付箋や模造紙を使いながら考える、いわゆるブレインストーミング方式をとります。もう一方は、4~5人ずつでグループにはなるのだけれども、話し合いはせず個々のメンバーが黙って付箋にアイデアを書き出す方式を取らせました。すると、各グループで出されたアイデアの単純な合計数も、その中身を第三者のコンサルタントが見て特に優れていると評価したアイデアの数も、どちらも後者、つまり話し合いをしないで個々のメンバーが黙って付箋に自分のアイデアを書き出す方式を取ったグループのほうが高い評価を得たのです。

直感的には、一緒に4~5人が話し合いながら付箋とか模造紙を使いながらの方が、いい考えが出てきそうな気がしますね。しかし、そうしてしまうと誰か一人の意見に引っ張られてしまうみたいな事が起きたりします。あるいは、何かアイデアを思いついたときにも、「これを言うのは恥ずかしいな」とか「ほかの人にどう思われるか分かんないから、これはやっぱり言うのを止めておこう」とか、そういう遠慮が生まれることがあります。

集合知が不具合を特に起こしやすいのは、メンバーの間に立場や権限の不均衡がある状態で話し合いが行われるとき、つまり、大抵の企業で今行われているような会議の構造そのままにしてブレインストーミングを行う時です。その場で影響力が強い人がどんな意見を持っているかが周りの人にも明らかになると、当然そのメンバーの人達は、彼女ないし彼の意見に合わせた意見を出す傾向が強まり、お気持ちを忖度してしまう。極端な場合、議事録をチェックされて、偉い人と見解を異にする意見を出した人に対して後から課長が「キミキミ、ちょっとこれはどういう事が説明してもらえる?大丈夫なの、これ?」とか言われるような環境だと、集合知は一切機能しません。こうした現象がなぜ起こるのかについては、次回に深堀りしてお話していこうと思います。

今日のまとめです。集合知とは、一人だけの天才の意見よりも、平凡な人々の意見をまとめた時の方が最終的により良い結論に至るという現象です。集合知が効力を発揮するためには、十分な数の参加者がいること、そして、一人一人の参加者が周りのメンバーに気兼ねすることなく安心して自由にアイデアを出せることの二つが必要条件となります。

分野: リーダーシップ 対人・異文化コミュニケーション論 組織行動 |スピーカー: 松永正樹

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