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フォルトライン理論

松永正樹 コミュニケーション学、リーダーシップ開発、アントレプレナーシップ

21/06/21

今回は、経営学の分野で近年注目されている「フォルトライン理論」というものをご紹介します。「フォルトライン」とは、英語で「断層」を意味します。フォルトライン理論では、多様性を上手く活かせる組織とそうでない組織を見分けるポイントとして、組織を構成するメンバーの属性によるグループ分けに着目します。たとえば、6名のメンバーから成るチームがあるとします。この時、もしメンバーの内3人が50代男性で営業職、残りの3人が30代女性で事務職となった場合、大体の場合だと前者の3人と後者の3人、それぞれで固まることが多くなってきますね。一方、その二つのグループの間の断層(フォルトライン)を越えたコミュニケーションは、相対的に少なくなります。そのため、女性のメンバーが面白いアイデアを持っていたとしても、それが男性の営業メンバーに伝えられる可能性は低くなり、結果として組織として多様性を活かすチャンスも小さくなっていくという話です。

ではこの断層をどうしたらいいか。フォルトライン理論の示唆は、はっきりした明確な断層ではなくて、細かい断層を沢山探しましょうということになります。つまり、同じ6人チームでも、全員年齢がバラバラ、性別ないし性的アイデンティティも多様で、職種や職能も一人ひとり異なるチームを考えてみましょう。ここでは、年齢とか性別という特定の属性によってグループが分かれて固まることが無くなります。もちろん、ウマが合うかどうかによってそれぞれコミュニケーションに濃淡が生まれるとは思いますが、先程のチームに比べると全員がお互いに話をする頻度が高くなって、話題の範囲も広くなるということがフォルトライン理論に基づく研究で知られております。

この様に、メンバー一人ひとりが他と異なる個性や属性を持つ組織のことを、「モザイク型組織」といいます。モザイク型組織では、一人ひとりがユニークな個性を持っているということをどのメンバーも肌で感じることが出来ます。その為、自分一人で解決するのが難しい課題が浮上したときには、自然と「誰かこの問題を解ける人いませんか?」とパスをまわす行動が生まれるのですね。自分では出来ないけれど、きっと誰かが何かを知っている、ヒントを持っている人がいるかもしれない、と考える。そして、ヒトには他者から問いを投げかけられると、それに答えたくなるという性質があります。そのため、モザイク型組織ではチームの課題解決力が高まって、イノベーションも生まれ易くなるわけです。

ただし、ここでちょっと疑問を覚えた方もいらっしゃるかもしれません。要するにフォルトライン理論が述べているのは、同じタイプのメンバーが多い組織よりも個性豊かなメンバーが揃った組織の方が多様性を活かし易いということで、そのこと自体は納得感があるのだけれど、既に組織の顔触れが決まっているところにいきなり「多様な属性に基づくモザイク型の組織にしましょう」と言われても、どうしたらいいのか、と。もちろん、中長期的には採用の段階からこのフォルトライン理論を念頭に置いて戦略的に組織の多様性を向上させていくことが王道であり、重要になります。

一方でメンバーを入れ替えること以外にもフォルトライン理論に基づいて多様性を活かせるように組織を変革する方法があります。それは秘められた多様性をメンバーが表に出し易いように、心理的に安全な職場環境を整えることです。人は誰しも複数のアイデンティティを持ち合わせていて、僕であれば、シスジェンダーでヘテロセクシャルの男性だとか40代だとか日本人だとか色々なアイデンティティがあります。場面と状況においてそれらを使い分けているのです。今このラジオでお話をしている場合は、QBSの教員というアイデンティティが前面に出ていますし、多分これが終われば別のアイデンティティが前に出て来る。しかし、ある特定のアイデンティティ以外はふさわしくないとみなすような雰囲気が組織に蔓延していると、メンバーは自分が本来持つ多様性を押し殺して、上司が違和感を覚えないであろう顔だけしか見せないように適応していきます。最初は多分意識的に、そしていつしか多分無意識のうちに、会社での自分が固定されていくのです。その結果、社内では本来様々な経験だとか知識、あるいは興味関心のジャンルを持つ社員が揃っているはずなのに、誰もが同じような意見しか述べず、同じような範囲でしか考えない行動しないというふうになってしまう。

この組織内に秘められた多様性についてアプローチは色々あるのですけれども、特に現在の日本において典型的なのが社員の性的アイデンティティに関わる部分です。昨年6月1日、改正労働施策総合推進法、通称パワハラ防止法が施行されました。その中に性的アイデンティティに関する差別やハラスメントを禁止し対策を義務付ける文言が盛り込まれたという事で、かなり性的アイデンティティに関する経営者の意識が変わってきたのかなとは思っています。しかし、それでも、尚LGBTQを自認する人達が様々な場面で有形無形の差別を経験しており、普段は出来る限り自分がLGBTQであることを隠しているというケースがまだまだあります。先程述べた多様性の一つですけれども、そういった自分の世界観であるとか価値観を出せずにいるという、これは非常に端的なケースかなと思います。

逆にLGBTQを自認するような人達が自分のセクシャリティを隠さなくても安心して仕事が出来るような組織は、恐らく性的アイデンティティ以外の面でも心理的安全性が担保されていると推察されます。こんな趣味を持っていますとかこんな経験をしましたとかこういう事に興味がありますと、安心して開示できる。そうすると、そういった情報共有の中から思わぬ仕事のヒントが出てくることが多々あるわけです。そういった組織では、社員が自分の個性をオープンにし易く感じますし、結果として多様な意見や行動が見られるようになります。そうしたことからフォルトライン理論によるモザイク型組織に近い構造が生まれて、組織の課題解決やイノベーション創出に繋がっていくとことになります。

今日のまとめです。フォルトライン理論では社員が分断されてグループや派閥に分かれた組織より、一人ひとりのユニークな個性が際立つモザイク型組織の方が問題解決力、イノベーション創出力にすぐれるとされます。多様なメンバーを採用すること以外にも、既存のメンバーが内に秘めた多様性を表に出し易いように、心理的安全性を高めることでモザイク型組織を実現することができます。

分野: リーダーシップ 対人・異文化コミュニケーション論 組織行動 |スピーカー: 松永正樹

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