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家電量販店の最安値宣言はライバルへの脅しだ

塚崎公義 経済予測、経済事情、日本経済、経済学

21/04/22

今日は、ライバル企業同士の値引き合戦がどうして起きるのか、それを止める事は出来るのか、といった話です。かつて、牛丼チェーンが値引き合戦でお客を奪い合った事がありました。どうしてそんな事が起きたのかを考えてみましょう。世の中の牛丼チェーンがAとBの2社だけだとします。Aの社長は何を考えるでしょうか。Bが値下げをするかどうか不明だから、ケース分けをして考えてみよう、ということで、4つのケースを考えるはずです。Bが値下げをする場合としない場合、自分が値下げをする場合としない場合、それぞれあるので、4つですね。

まず、Bが値下げをしない場合はどうでしょう。Aも値下げしなければ今のままですが、値下げをすればBのお客を奪って来れるのでAの利益は増えるはずです。したがって、Bが値下げしいない場合にはAは値下げすべきです。

では、Bが値下げをする場合はどうでしょう。Aが値下げをしなければBにお客を奪われて大損してしまうでしょう。値下げをすれば、利益は減りますが、お客の数は変わらないので、大損というほどでも無いでしょう。したがって、Bが値下げをする場合には、Aは値下げをすべきなのです。

Bが値下げをしない場合も、値下げをする場合も、Aはいずれにしても値下げをするわけです。そうなればBも値下げをするでしょう。Aにお客を奪われては大損ですから。結局、AもBも値下げをして、お客の数は変わらないわけですから、AもBも利益が減るだけに終わります。お客としては嬉しいでしょうが、AとBは悔しいですよね。

これは、「ゲームの理論」という経済学の分野で有名な「囚人のジレンマ」という話を牛丼チェーンに応用してみたという話なのですが、AもBも利益が減ってしまうような意思決定がなされてしまうわけですね。両者ともに儲けを増やそうと思って真剣に考えて行動した結果、両者ともに利益が減ってしまう、という皮肉な事が起こりかねないわけです。

でも、どうすれば良いのかが難しいのです。AとBが相談して「値下げをしない」という契約を結べば良い、と考える人は多いのですが、それはうまく行かないのです。なぜなら、AもBも「相手が契約を守っている間に自分だけ契約を破って値下げすれば、相手のお客を奪って来れるぞ」と考えるので、どちらも約束を守らないのです。

もっとも、救いはあります。一回限りの意思決定ではないからです。契約をする時に、A社の社長がこう言えば良いのです。声優になったつもりで、A社社長の役をやってみましょう。「我が社は、明日は値下げせずに、あなたが値下げするかどうかを見ることにします。もしもあなたが値下げをしたら、私は腹をたてて明後日から値下げをします。でも、もしも明日あなたが値下げをしなければ、私は満足して明後日も値下げをしません。私が契約を守るかどうかは、あなた次第なのです」というのです。

それを聞いたB社の社長は、何を考えるでしょうか。少し長くなりますが、今度はB社の社長の役をやってみましょう。「明日我が社が値下げをしたら、明日は大儲けができるでしょう。しかし、そんな事をしたら、明後日はライバルも値下げをするでしょう。そうなれば、両者とも安売りをするので、明後日以後は永遠に利益が減ったままになってしまいます。」

「明日我が社が値下げをしなかったら、ライバルは明後日以降も値下げをしないと言っています。そうなれば、明日の大儲けは出来なくなりますが、明後日以降も永遠に今の利益が続くことになります。」

「長い将来を考えれば、明日だけ大儲けをするよりも、ずっと今の利益が続く方が良いに決まっています。明日は我が社は契約を守って値下げをしないことにしましょう。明後日以降も値下げをしないないつもりです」。

こうしてB社の社長は、明日以降も値下げをしない事を決めます。そうなると、A社も明日以降も値下げをしないので、無用な値下げ合戦で両者とも酷い目に遭う、といった事態は避ける事ができるわけです。

これは名案なのですが、問題があります。カルテルという法律違反だということで公正取引委員会に叱られるかも知れないのです。そこで、A社はカルテル違反にならないような方法を考えます。お客に向けて貼り紙をするのです。「当店は、最安値宣言をします。他の店が当店より安い値段で売っていたら、当店もその値段まで値下げします」というのですね。おお客はそれを読んで、「この店はお客に優しい良い店だ」と思うでしょう。公正取引委員会も何とも思わないでしょう。

しかし、その店を偵察に来ていたライバル会社のスパイは真っ青になるかも知れません。ライバルが読むと、違う文章に読めるからです。「わかってるだろうな。お前が値下げをしたら、俺も絶対値下げをするからな。お前が値下げをしなければ、俺も値下げはしない。社長にそう伝えろ。」と読めるわけですね。

今日のまとめです。値下げ競争を止めるのは簡単ではありません。値下げしないという約束をしても、約束を破る方が得をするからです。家電量販店の最安値宣言は、ライバルに値下げを思い止まらせる効果を狙ったものなのです。

分野: 景気予測 |スピーカー: 塚崎公義

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