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ステレオタイプの脅威

松永正樹 コミュニケーション学、リーダーシップ開発、アントレプレナーシップ

21/04/01

前回から、「多様性」というテーマでお話ししています。多様性というと女性・障害者雇用という話になりがちですけれど、そうではなくて、誰もが働きやすい環境はどういうものなのかを企業が考えていくことが大事だというお話でした。ただ、講演とかセミナーで誰もが働きやすい環境の重要性についてお話をすると、きまって「男性だろうが女性だろうが、あるいは外国人だろうが、それは関係ないのではないですか」と言われます。「誰かを特別扱いするのではなくて、全員同じ条件にして、それで成果を出せる優秀な人を客観的に評価すればいい」と。これについては、僕も「特別扱い」はしなくていいと思います。ただ、こうした指摘が見落としていることが合って、それは、実は多くの面で現在の日本社会ではむしろ健常者の日本人男性こそが特別扱いを許される場面が多い、という事実です。つまり、現在の日本社会の有り様そのものが元々「全員同じ条もともとになっていないということが指摘をされています。

分かりやすいところで言うと、子持ちの男性が夜遅くまで残業したり泊まりがけの出張をしたり、あるいはもっと家族の負担が大きなケースで言うと、単身赴任をしたりといったことが日本ではいまだによくあることと受けとめられる場面が多いかと思います。しかし、同じことを女性がするとなると、急にお子さんは大丈夫ですかというチェックが入ります。尋ねる側はチェックをかけているという意識はなくて、むしろ善意で聞いているのかもしれません。けれども、言われる側からすると「なぜ私だけがブレーキをかけられて、男性にはそれがないのか」と感じる人もきっといるでしょう。言い替えると、現代の日本ではまだ健常者の日本人男性以外の人に対して、ビジネスで活躍する上で有形無形の様々なハンデが課せられていると言ってもよい状態なのです。そして、それは結果として、自社のメンバーが本来ならなし得る筈の成果が毀損されているということであって、組織にとっても本来望ましくないことです。

先程述べたような分かりやすいケースのほかにも、近年の社会心理学の研究によって組織の中でのマイノリティに悪影響を及ぼす可能性があることが明らかにされてきています。それは、「ステレオタイプの脅威」と呼ばれるものです。ステレオタイプとは、ある人が属する集団に対して社会的に蔓延している固定観念や思い込みのことです。たとえば、日本人は英語が苦手であるとか、男性は論理的で女性は感情的だなどといったものが典型的です。ステレオタイプの脅威とは、ある人に対して彼女ないし彼が属する集団へのステレオタイプを意識させると、それによって思考力が弱められたりモチベーションが低くなったりする等の悪影響が出てしまう現象のことを言います。たとえば、女子大学生を二つのグループに分けて数学のテストをさせた有名な実験があります。振り分けは完全にランダムで、二つのグループの平均的な学力は同じです。しかし、実験前に自分が女性であることを意識するようなアンケートに回答した一方のグループの学生は、そうしたアンケートへの回答なしで受験したもう一方のグループと比べて、著しく低い点数をとってしまいました。これは、自分が女性であることを意識した結果、女性は数学が苦手であるというステレオタイプを思い起こしてしまい、半ば無意識のうちにそれにとらわれることで本来の力が発揮できなかったためであると結論づけられています。

同様の結果は、これ以外の場面でも見られます。日本人に国際会議の前に日本人であることを意識させると、急に英語がたどたどしくなるといった現象も知られています。ここからすると、例えば、男性は全員自前のスーツ姿で仕事をしているのだけれど、一部の女性社員は制服で働いているとか、あるいは人事部や広報部等特定の部署でだけ女性従業員の比率が高いのだけれど、部長や役員等の経営陣は全て男性で占められているなど、部門や職位で偏りが見られる人員配置になっている組織では、常にステレオタイプの脅威が働いてしまっている可能性があります。明示的にうちの会社では男性を優遇しますとは当然言うわけはないのですけれど、それでも影響を受けるということです。そうした場合に伝わってくるメッセージ、例えば、この組織の主役は結局男性であるということが伝わっていくと、たとえ給与だとか産休・育休といった制度上の面では平等であったとしても、「全員が同じ条件」で仕事をしているとは言えない、ということになります。

ステレオタイプの脅威を軽減するためには、いくつか方策があります。まず、人数的にマイノリティにあたるメンバーがそのことを意識するような仕組みとかルールについて、可能な限り見直すとことが第一です。先程述べた一部の女性社員だけが制服で働く等は、正にその典型となります。また、もう少し時間はかかりますが、より本質的な改善策として、マイノリティにあたる人に組織の中核的な役割を担ってもらうように支援するということが挙げられます。というのも、ステレオタイプの脅威が働いてしまうのはマイノリティの人達がステレオタイプを意識するあまりこの組織で自分は活躍できないとか、ここで中心的な存在になりたい、活躍したいと思ってもマイノリティである自分は認めてもらえないのではないかと気に病んで、本来の力を発揮できなくなってしまうからです。したがって、それらの不安を払拭するような存在、例えば、経営陣で辣腕を振るう女性役員がいるとステレオタイプの脅威は半減します。前回は、単に外形的な数字合わせで女性を登用してもかえって経営にはマイナスですよとお話しましたけれど、そうではなくて、きちんと誰もが働きやすい職場環境を整えていく中で、周囲のロールモデルになれるような女性・外国人、あるいは障害者の方がいれば、彼女ないし彼を積極的にサポートすることでそれ以外のマイノリティのメンバーの人達も勇気を得られます。そうすると、結果として組織全体が活性化するようになるのかなと思います。

今日のまとめです。多様性を活かせる組織づくりには、誰もが働きやすい職場環境の整備が欠かせません。その一環として、マイノリティメンバーが力を発揮することを妨げる「ステレオタイプの脅威」を、いかに軽減していくかが重要になります。ステレオタイプの脅威とは、マイノリティメンバーが自分に向けられるステレオタイプを意識するあまり、思考力やモチベーションが低下してしまう現象のことを言います。これを改善するには、マジョリティとマイノリティの違いを意識させるようなルールや制度を修正するとともに、マイノリティメンバーが組織の中核で活躍できるように支援することが重要です。

分野: リーダーシップ 対人・異文化コミュニケーション論 組織行動 |スピーカー: 松永正樹

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