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損益分岐点1

平松拓 企業財務管理、国際金融

21/03/15

長引くコロナ禍の下で、サービス業中心に事業者は大きな影響を受けています。中小の事業者では廃業に追い込まれたところも少なくありません。ただ、同じような業種で同じような規模の事業者が同じような売上減に見舞われた場合でも、全ての事業者が同様に赤字化するとは限りません。その理由は事業者によって損益構造に違いがあるからです。このように売上が変動した場合、利益にどう影響するかを示す指標として「損益分岐点」というのがあります。今回は、この「損益分岐点」について考えて見たいと思います。

損益分岐点とは、売上がこの水準を上回れば利益が出るし、下回ると損失が出る、別な言い方をすれば収入と支出、売上と費用がバランスする売上水準のことです。企業によってこの損益分岐点は異なるのですが、現在の売上が損益分岐点より遥かに高いところにある企業はこの先多少の売上減に見舞われたとしても耐えられるのに対し、売上水準が損益分岐点に近い企業ではたとえ僅かの売上減少でも赤字に転落しかねないという違いがあります。

それでは、この損益分岐点はどのように決まるのでしょうか。これを考えるには売上と総費用の増加の関係を見ていく必要があります。総費用は大きく分けて変動費用と固定費用からなりますが、変動費用とは売上増加に比例して増加する費用のことで、メーカーで言えば原材料費、サービス業の場合には出来高払いの賃金や燃料代などが含まれます。変動費用が売上より大きければそもそも事業が成り立たないことになりますが、売上との差が限界利益とか貢献利益とか呼ばれ、それも売上と比例して増減します。

これに対して固定費用は、その名の通り売上水準に拘わらず一定額固定的に発生する費用のことで、例えば事務所の家賃や機材の減価償却費、間接部門の給与などが含まれます。どんな企業でも固定費用が全く無しという訳には行かないので、売上がゼロの時にはその固定費用分だけ損失が生じることになります。また、売上が増えて限界利益が生じ始めても、それが固定費用を下回っている間は赤字が続き、限界利益が固定費用を上回るようになって初めて利益が生まれます。この境界が損益分岐点です。

これは図に書いて考えると分かり易いのですが、横軸に売上高を取り、縦軸に費用または売上でカバーされる費用の金額(売上高に等しい)を示すと、先ず、固定費用は売上に左右されずに一定なので横軸と平行な直線で表せます。一方、変動費用は売上高に比例するので原点を通り右上がりの直線として表せ、その合計である総費用は変動費用線を固定費用線の上に載せたような線、即ち売上ゼロの時固定費用と重なる右上がりの直線で表せます。そして売上でカバーされる費用は売上と等しいので、原点を通り傾き45度の右上がりの直線で示され、それと総費用線との交点が損益分岐点ということになります。

それでは、この損益分岐点を下げて売り上げが簡単にそれを下回らないようにするにはどうしたら良いのでしょうか。損益分岐点の求め方から考えれば、変動費用と固定費用からなる総費用を抑えて総費用曲線を下に下げれば、より左側で売上でカバーされる費用線(45度線)と交差することとなり損益分岐点は下がります。しかし、固定費用にしても変動費用にしても、単に抑制するのは簡単ではありません。例えば変動費用を削減しようとして原材料費を削ると、粗悪な原材料を使うことになって品質の低下が起こりがちですし、固定費用を抑えるために抱える設備をスリム化すれば、逆に売上が増加する場合にチャンスを逃しかねないという問題があります。

こうした場合に考えられるのは、固定費用を変動費用化したり、逆に変動費用を固定費用化して両者のバランスを変化させることで損益分岐点をコントロールしてやることです。この内変動費用の固定費用化とは、例えば社外より購入していた中間財を設備を購入して内製化するようなケースです。この場合、固定費は増加しますが変動費率が下がって総費用の増加ペースが抑えられるので、売上が小さいところでは総費用が増加しますが、売上が損益分岐点を超えると利益が急速に増加します。そのため成長局面にある事業にとっては有効な方法と言えますが、逆に固定費が増加するので損益分岐点が上昇(右にシフト)しがちなので、売上不振の企業にはあまり向きません。

逆に固定費の変動費化を図れば損益分岐点が低下(左にシフト)するので売上の減少に対して有効な防衛策となることが考えられます。この固定費用の変動費用化については、次回改めて具体的な例を含めてご説明したいと思います。

まとめ:コロナ禍でサービス産業中心に事業者は売上減に見舞われ、大きな影響を受けています。そうした中でも、損益分岐点の低い企業は相対的に売上減少への抵抗力が強いのですが、損益分岐点の高い企業が損益分岐点を下げようとして単に変動費用や固定費用を下げようとしても上手くいくとは限りません。そうした場合、固定費用の変動費用化や変動費用の固定費用化によって、損益分岐点と収益力をコントロールすることが一つの方法です。

分野: ファイナンシャルマネジメント |スピーカー: 平松拓

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