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2021年ノーベル化学賞:ゲノム編集②

荒木啓充 バイオ産業

21/02/11

前回は、去年のノーベル化学賞を受賞した「ゲノム編集」という技術についてお話ししました。今日はその続きとして、この技術をめぐってアメリカの大学間で起こっている裁判についてお話します。

昨年のノーベル化学賞の受賞者は、カリフォルニア大学のダウドナ博士とドイツのマックス・プランク研究所のシャルパンティエ博士に贈られました。二人とも女性の研究者です。以前からこの「ゲノム編集」のノーベル賞受賞は時間の問題と言われており、誰が受賞するのかというのも話題に上がっていました。実は、ノーベル化学賞を受賞するだろうと思われた研究者がもう一人存在し、アメリカのブロード研究所というハーバード大学とマサチューセッツ工科大学が出資して設立した研究所のフェン・チャン博士も候補として挙げられていました。しかし、最終的には先程紹介した二名の受賞となりました。現在アメリカでは、ノーベル賞を受賞したダウドナ博士が所属するカリフォルニア大学と、受賞を逃したチャン博士が所属するブロード研究所でゲノム編集技術をめぐった熾烈な特許戦争が起きています。

そもそも特許を最初に出したのは、今回受賞したダウドナ博士・シャルパンティエ博士チームで、カリフォルニア大学から出願されました。この数ヶ月後にチャン博士もブロード研究所から出願しました。アメリカは特許申請の際に追加費用を支払えば優先的に審査をしてくれる制度があり、ブロード研究所はこの制度を利用してカリフォルニア大学よりも早く特許を取得しました。つまり、先に特許を出願したのは賞をとったダウドナ博士とシャルパンティエ博士だったわけですが、先に特許を取得したのはチャン博士でした。当然これに対してカリフォルニア大学が異議申立てを行い、ここから特許紛争のゴングが鳴ったわけです。これが2016年のことです。この年にブロード研究所が取得した特許の再審査が開始しました。その結果、2017年にブロード研究所の取得した特許は再審査でも改めて認められました。ただ、これに対して2019年にカリフォルニア大学が再度異議申立てを行い、アメリカの特許庁は再々審査を開始しました。

このように揉めに揉めているわけですが、それだけどちらが獲ったのかということをきちんとしておかなければ、後々大変なことになるほど大きな技術だというわけです。この技術は医療や農業生産に応用出来る技術で、実際アメリカのリジェネロンというバイオ企業は、肝臓の薬の開発に総額で約30億円をカリフォルニア大学にライセンス料を払っています。アッヴィというバイオ医薬品会社も、目の病気の医薬品開発にブロード研究所に93億円支払っており、その特許権取得者に巨額のお金が入るということで双方共必死です。

特許権はどちらか一方にしか入らないため、両方引けないわけです。実際に既に裁判の費用だけでも数十億円がかかっていると言われています。医療や農業生産を合わせるとこの技術は一兆円を超す市場とも言われており、なおさら特許を取得したいとい白熱しています。逆にライセンスを受ける側からしても、二つの特許が存在すると場合によっては両方に特許ライセンス料を払わないといけなくなる可能性もあり、早く解決してほしい問題です。

では、何故ここまで複雑になっているかという、ポイントは二つあります。一つ目は、そもそもこの二つのグループが出した特許は、細かい技術的な所を言えば、ダウドナ博士とシャルパンティエ博士のチームはこの技術を試験管の中で試したのに対して、チャン博士は実際動物の細胞でこれが使えるというのを発見したという違いがあります。ただし、チャン博士が使った技術は先に申請したダウドナ博士とシャルパンティエ博士の技術を使っているため、そこが今回のポイントの一つになっています。もう一つややこしくしている理由として、当時アメリカの特許制度は「先発主義」で、先に発明した方が権利を取得するという立場をとっていました。つまり、先に出願しなくても先に発明したことを研究ノート等で証明することが出来れば、出願した人よりも後から出願した人の方が特許を取得出来るため、それがより裁判を複雑にしています。ただ裁判係争中において、誰がノーベル賞を受賞するかによって裁判に少なからず影響を与える可能性が否定出来ない中、結果的にはダウドナ博士とシャルパンティエ博士が受賞したため、これが今後の裁判にどのように影響を及ぼすかは注目です。

では、今日のまとめです。
昨年のノーベル化学賞をとったゲノム編集技術によってアメリカの大学間で特許裁判が起こっており、今なお決着していません。裁判費用だけでも数十億円かかっていると言われています。最終的な判決によってはこの技術を使う企業は膨大なライセンス料を支払う必要性があるなど、今後の裁判の行方が注目されます。

分野: バイオ産業 |スピーカー: 荒木啓充

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