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2020年ノーベル化学賞:ゲノム編集①

荒木啓充 バイオ産業

21/02/10

今日は、昨年のノーベル化学賞を受賞した「ゲノム編集」という技術についてお話します。
この技術がどれほどすごいものなのか、過去のノーベル賞を受賞した技術と比べてみたいと思います。

「オプジーボ」という癌の治療薬の開発に繋がった本庶 佑先生が受賞した研究は、発見した年から受賞までなんと26年かかっています。一昨年受賞された吉野先生の「リチウムイオン電池」に至っては、発明から約40年の期間がかかっています。そうした中、このゲノム編集は発明から受賞までわずか9年という短期間で受賞に至るほどインパクトの強い技術です。その発明のすごさが短期間で証明されるほどの技術といえます。

では、この「ゲノム編集」とは一体どんな技術なのかについて説明します。
そもそも「ゲノム」とは、生命の設計図、遺伝情報と言われますが、それ自体は核酸という物質によって構成されています。よく耳にするDNAもこの核酸の一つです。「遺伝情報」と言われるくらいなので、これ自体は情報なのですが、アデニン、チミン、グアニン、シトシンという四種類の化学物質から構成されており、人体の細胞の中にはこの四種類の化学物質が約30億個格納されていると言われています。この4つの化学物質の頭文字をとってその組み合わせを、A・T・G・Cと表します。例えば、「ATTGC」「TCGCAG」などです。実際には一つの遺伝子はこの文字列が数万個並んで構成されています。

ゲノム編集は、この遺伝情報を簡単に編集できる技術です。
例えば、ある遺伝子のA(アデニン)をT(チミン)に替えたり、A(アデニン)そのものを無くしたりして、その遺伝子が持つ機能を変えることができます。自分が編集した遺伝子をピンポイントで操作できるのがこの技術のすごさです。これまでにも遺伝子を編集する技術は存在していましたが、狙ったところに編集できずに運任せの所が多分にありました。しかし、「この遺伝子をこれに変えたい」という操作が意図的に、しかも非常に簡単な方法で行うことができるのがこの技術の優れた点です。

よく知られている技術として「遺伝子組み換え」という言葉がありますが、あれは放射能や薬剤で人為的に遺伝子の変異を誘発するような操作をして遺伝子組み換えを行っています。ただし、それは狙ったところに狙った変異が入るまで何度も何度もトライアンドエラーをして、最終的に望み通りに組み換えた作物を得るため、お金と時間と労力がかかる技術です。なかなか一発で望み通りのものが出来るわけではなく、遺伝子組み換え食品というのは実際数年から数十年の月日で品種改良されて食品が出来ています。しかし、この「ゲノム編集」はわずか一年足らずで実施することが出来、時間にして約百分の一短縮できると言われています。

では、この「ゲノム編集」が出来るとどんないいことがあると思いますか。
今から実際にこの技術を使って開発が進んでいる二つの例を挙げてご紹介したいと思います。

一つは、このゲノム編集を使って通常の鯛よりより肉厚な鯛を作り出す取り組みが行われています。これは「ミオスタチン」という筋肉の細胞の増加や成長を止める遺伝子の機能をあえてこのゲノム編集で欠損させることで、筋肉量を増やす鯛を生み出しています。
もう一つは、癌の免疫療法に応用された例です。癌は人間の免疫機能の破綻によって生じていると言われていますが、その破綻した免疫機能を一旦外に出して、ゲノム編集でその機能を回復させて再び患者さんに戻すことで、免疫力を高めて癌細胞を攻撃して治療するということも実際の臨床の現場でゲノム編集の技術が使用されています。

こうして医療の現場で病気を克服するということで使われるのは、とても画期的な取り組みだと感じますが、簡単に遺伝子が編集できるというのは少し怖い気もします。実際に2018年の11月に中国の研究者が遺伝子を改変した人間の赤ちゃんを誕生させたというニュースで世界中が衝撃を受けました。いわゆるデザイナーベイビーと言われていて、これも今回受賞したゲノム編集技術が使われています。現在の所、人の生殖細胞に対してこの技術を使わないというのが世界の共通認識になっていますが、使い方によってはこのような使い方も可能です。今後この技術をどう使っていくのかということについては、世界的に皆で考えていかないといけません。

では、今日のまとめです。
昨年のノーベル化学賞となったゲノム編集技術は、様々な生物の遺伝情報を簡単に高い成功確率で編集できる技術です。この技術は我々の医療や食料のあり方に大きな影響を及ぼす一方で、その使い方によっては諸刃の剣になりかねません。遺伝情報を編集するということはどういうことかを一人一人が考えないといけない技術です。

分野: バイオ産業 |スピーカー: 荒木啓充

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