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PCR開発物語2

荒木啓充 バイオ産業

20/10/29

前回はPCR検査の「PCR」がどうやって誕生したのかについてお話しました。
PCRというのは、わずかなDNAを増やす技術のことで、その技術を開発したのがアメリカのシータスというバイオベンチャーの社員だったキャリー・マリス博士でした。彼がこっそりと開発していたものが今や世界中で使われるものになったという内容でした。PCR開発物語第二弾の今日は、開発されたPCR技術がその後どうなったのかについてお話しします。

PCR技術は非常に優れた技術ということでノーベル科学賞も受賞したわけですが、それをどう応用出来るかというのは、1990年代当時はそれほど広がっていませんでした。しかし、それと同時期に「ヒトゲノム計画」という人の遺伝子の全ゲノムを決める世界的なプロジェクトが発足されました。生物学のアポロ計画と言われたこのプロジェクトにより、人を始め様々な動物や植物の遺伝情報が解読されていき、これに伴ってPCR技術も爆発的に普及していきました。

では、様々な生き物の遺伝情報が明らかにされていくことと、僅かなDNAを増やしていく技術であるPCR技術がどう結びついていったのでしょう。
例えば、ある生物の遺伝子機能を調べようとした場合、その機能を調べるためには遺伝子をたくさん増やす必要があります。その際に、生物からとってきた細胞をPCR技術によって増やしていくことで、増やした遺伝子がどういう遺伝子なのかを解析をすることができるわけです。逆に言えば、遺伝情報を解読するというプロジェクトが普及しなかったら、PCRもここまでは普及しなかったわけです。

今回のコロナウイルスも実はコロナウイルスが発生してすぐに様々な国がこのコロナウイルスのゲノム(遺伝情報)を解読しています。世界中の研究機関でデータが公開されていますが、そのコロナウイルスの遺伝子の特定の部分を増やすというのが「PCR」で、この検査によって特定の遺伝子が増えると「陽性」、増えなかったら「陰性」となるわけです。今回のような世界規模な感染症が起きた時に、ウイルスによるものである場合、その遺伝子を持っているのかどうかを検査するためにこのPCRの技術が使えるということが分かったわけです。

実はこれ以外にもPCR技術が使われている例はたくさんあります。
例えば、「遺伝子診断」もその一つです。これはウイルス検査と似ているところがありますが、ある特定の遺伝子に突然変異があるとガンになりやすいなどの診断をする「遺伝子検査」や、最近犯罪捜査などでも使われる「DNA鑑定」などもこのPCR技術が使われています。それぞれ人は違う遺伝子のタイプを持っているため、そのタイプの遺伝子があるかどうかをPCRで増やしていくことで犯人を判定することができます。その他にも、遺伝子組み換えの作物の研究、映画「ジュラシックパーク」で琥珀の中に保存されていた恐竜のDNAをPCR技術によって増殖させるなど、至る所でPCRが使われています。
このような素晴らしい技術ですが、当時はあまり評価されていませんでした。その価値を一番知らなかったのは実は開発したシータス社でした。この会社自体が医薬品を開発することに注力していたため、そこに資金や人材を費やしていたため、PCR技術を開発はしたけれども、あまり重要視していませんでした。
一方で、スイスのロッシュという製薬会社がこの技術の高さにいち早く気付いて関心を示し、PCR技術の特許権を売ってくれとシータス社に猛烈に迫りました。シータス社はPCR技術のすごさは認めつつも社内での優先順位はあまり高くなかったため、その特許をロッシュに売却しました。その代わりシータス社はロッシュが保有していた薬の特許の使用を要求して、ロッシュはこれを認めました。当時3億ドルで購入したロッシュ社は、開発を行いPCRの技術を改良していきました。その結果、今日までの間にロッシュ社のPCRが導き出した経済効果は少なく見積もっても数兆円を超えると言われています。2005年に特許の有効期間が過ぎており、PCR技術そのものは今は誰でも自由に利用することが出来ますが、今でも特許が有効であったらここまでPCR検査が普及していなかったかもしれません。

では、今日のまとめです。
PCRを開発したシータス社は、この技術の潜在的価値をあまり高く評価していませんでした。その後、特許権の権利を約3億ドルでロッシュ社に売却しました。一方、ロッシュ社はPCRの技術の改良を重ね、PCR技術のプロトコルを様々な所で展開していき、現在まで数兆円の経済効果を生んだと言われています。大切なのは技術の「本質」、また他の技術の動向などを総合的に俯瞰して将来を予測する目利きの力です。これがロッシュにはあったと思っています。

分野: バイオ産業 |スピーカー: 荒木啓充

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