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リアリティ・ショックと適応のWカーブ

松永正樹 コミュニケーション学、リーダーシップ開発、アントレプレナーシップ

20/09/16

今回は、ヒトが新たな環境に馴染んでいくプロセスについて掘り下げていきます。前回までお話したように、新たな組織の一員となってそこで周囲の人々と人間関係を構築しながら自分の役割を見いだしていくというのは、基本的に難しいプロセスです。そこでは多かれ少なかれ、組織に加わる前に抱いていたイメージと現実とのギャップがあります。このギャップに直面することで生じる心理的な影響のことを「リアリティ・ショック(Reality Shock)」といいます。新しい組織に入る前は、誰しもいろいろな憧れや、入ったらこんなことができるんだろうなという夢を持っているものです。ただし、このときはだいたい良いことしかイメージしていません。なので、実際に仕事を始めてみて「あ、違う」となった時のショックは、やはり大きいということです。

リアリティ・ショックは、留学や海外駐在で経験するカルチャー・ショックと構造的には似通った心理体験です。それまでと違う思考行動が求められるようになって変化する。もっと大きく言うと、自分は何者であるかという自己イメージにも大きな変化が生じるプロセスになります。一方、カルチャー・ショックと違って、リアリティ・ショックは誰もが経験するものです。なぜなら、就職や転職で新しい組織の一員になる時だけではなく、昇進など同じ組織の中で新しい役割を任されるようになった時にも生じるものだからです。このリアリティ・ショックに対して多くの人は、「適応のWカーブ」と呼ばれるプロセスを通じて新たな自分の役割を見いだしていきます。

今回は、新しく組織の一員となっていく入職者のケースで考えていきましょう。まず、新しい組織に入る直前から仕事を始めた直後、これは「ハネムーン期」と呼ばれます。新しい組織で仕事を始めることに胸が躍って、大きな期待感と強い意欲がわき起こる。不慣れなことがあってもそれもまた新鮮な体験ということで前向きに解釈され、組織のコミットメントも非常に高い状態。新婚さんに似ていますね。新しく仕事を始めた直後にこんな心理的インフレが生じるのはなぜでしょうか? 一つは、本人に高揚感があります。ヒトは本質的に好奇心に満ちた存在なので、それまで経験したことがない新たな体験はヒトの脳に喜びと興奮をもたらします。しかし、ハネムーン期のポジティブさはそれだけではなく、周囲の人々によってもたらされる部分もあります。つまり、まだ新人と見なされているうちは周囲が余裕を持って見てくれるので、なかなか本領を発揮できなくても「まだ慣れていないからね」と大目に見てもらえる。ゲームのイージーモードみたいな状態であることが多いので、ハネムーン期には満足度を損ねるような体験そのものがあまり発生しにくいという構造があります。

しかし、当然ながらハネムーン期は長くは続きません。新しい組織の一員となってしばらく経つと、先ほどお話したとおり、リアリティ・ショックが生じて満足度やコミットメントがここで低下します。ただしこのショックは誰もが経験することであり、決してネガティブなことだけではありません。

リアリティ・ショックのポジティブな側面として、まず当該組織で働くことについてのイメージをきちんと修正できるという点が挙げられます。リアリティ・ショックが生じる原因となっていた高すぎる期待や思い込みを修正して、より現実味のある働き方だとかキャリアプランを立て直すことが出来るようになります。さらに、リアリティ・ショックは自分の成長機会を見いだす契機にもなりえます。ショックの原因が、思っていたよりも職務上の課題が大きいとか、求められるパフォーマンスの水準が今の自分がこなせるレベルより高いということであれば、逆に言えば、自分がそれだけ成長しなければならない環境に身を置いているわけですから、それを自覚して対応していくと新たな成長へと繋がっていくわけです。

実は、僕自身もリアリティ・ショックによる成長を何度も経験したことがあります。大学院を出て2年間英語の教員をした後に、東京の池袋にある立教大学の教員になるという転職が決まりました。その際に、後の同僚となる先生が当時の僕の授業を視察に来てくれて後日メールでフィードバックをしてくれました。その内容を一言でいうと、「即戦力の教員としては話にならない、レベルが低い」と。そして、メールは「しかしまだ若いし、今後の成長に期待する」と結ばれていて、まあ大変なショックを受けたわけです。それでもその先生が書いてくださったフィードバックの内容は非常に示唆に富んでいましたし、指摘されている問題点はどれも的を射たものばかりで納得せざるを得なかった。

とはいえ、着任直前にこんな指摘を受けたので、ものすごく焦りました。どうしよう、このままではまずいなということで、半分涙目になって大きな書店に駆け込み、経営学部に行くと言うことで経営学に関する本、それから教え方の本を20冊ほど買って必死に読み込み、それまでの自分の授業のやり方をガラッと作り替えました。おかげで、いざ着任してから担当した授業ではどれも学生の方々から高い評価を得ることができたので非常に良かったのですけれども、リアリティ・ショックの観点から振り返ってみると、あの時の僕は、無事に転職の内定を得て、新しい仕事でワクワクしている。一方で、そこで求められるスキルや知識を自分が十分もっていないということについては、ちゃんと向き合えていなかったわけです。それを件の先生は見抜いてズバリ指摘してくれた。非常にありがたいことでしたし、彼とは今でも折に触れ近況を報告したり、教育や研究について意見交換をしたりといった関係を保つことができています。

このように、ハネムーン期を過ぎたあとのリアリティ・ショックは文字通りショッキングな体験ではあるのですが、その分大きな転機ともなりえます。人生山あり谷ありとまとめるのはやや大雑把かもしれませんが、理論的には実際にその通りなのです。こんなはずではなかったとか、このままではまずいと思う場面こそ、実は成長のチャンスかもしれないというのがWカーブ理論からの1つの示唆になります。次回は、今日話したリアリティ・ショックの後、どんなプロセスを経て人が新しい環境に適応していくのかという、Wカーブの後半部分についてお話をしていこうと思います。

今日のまとめです。新しい組織の一員となり、そこでの新たな役割と環境になじんでいく時、多くの人が山あり谷ありのWカーブと呼ばれるプロセスを経て適応をすすめていきます。そこでは、まず新しい組織で仕事を始めることによる興奮と刺激にしたハネムーン期、次いで現実に向き合うことでショックを受けるリアリティ・ショックが待っています。リアリティ・ショックは精神的なダメージともなりえますが、それを前向きにとらえることで大きな成長の機会を示してくれるものでもあります。

分野: リーダーシップ 対人・異文化コミュニケーション論 組織行動 |スピーカー: 松永正樹

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