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選抜の妥当性と6つの手法

松永正樹 コミュニケーション学、リーダーシップ開発、アントレプレナーシップ

20/07/30

本日は、組織が新しいメンバーを選抜する際の「妥当性」にフォーカスしてお話をしていきます。ある組織が採用を行う時、それが妥当なものであったかどうかをどうやって判別するか。これには色々な観点があり、一つひとつ掘り下げていくとそれだけでも一冊の本になるほどです。ちなみにこの採用活動のより詳しい論考にご興味がおありの方がいらっしゃいましたら、今神戸大学で教鞭をとっておられる服部泰宏先生が書いた『採用学』という書籍があります。非常に面白い本なので、ぜひお手にとってご覧ください。

採用の妥当性に話を戻すと、色々な観点はあるものの、ざっくり「採用すべき人を採用できた」、「採用すべきでない人を不採用にした」という二点が達成できれば、これをもって採用活動は妥当なものだったと評価できる。これは皆さんもご同意いただけるのではないかと思います。つまり、採用した人が期待通りの仕事ぶりを発揮しており、同僚だとか上司、経営陣の誰一人としてなんでそんな人を採用してしまったのかと感じないのであれば、これは妥当な採用だと言えるでしょう。こうした基準のもとに、ではどのようなアプローチで採用活動を行えば妥当な採用に繋げられる可能性が高くなるのかという研究は、実は世界中で行われています。本日はその中で主なものを6つご紹介します。

一つは「認知能力テスト」。論理的な思考力や読解力、言語運用能力、論理性といった認知的な能力をテストで測定をし、スコアが高い人を優先的に採用するという手法です。いわゆる適性検査もこの認知能力テストの範疇に含められます。二つ目は「面接」です。こちらの番組をお聴きの皆さんにもお馴染みの手法かと思いますけれど、これもある程度の枠組みの中で面接官が即興で質問を組み立てる「非構造化面接」と呼ばれるものと、全ての候補者に対して同じ質問を同じ順序でぶつける「構造化面接」と呼ばれる手法の2パターンがあります。

三番目は「職務知識テスト」と呼ばれるやり方で、募集されている職種で必要とされる専門的な知識や課題解決に関する手法を問うものです。やり方は筆記テストだとか面談等色々あるのですけれども、一つ目にお話した認知能力テストと違って一般的な知的能力を問うのではなくて、募集中のポジションにおける職務に直結した専門的な知識の見極めを目的としています。例えば、アナウンサーの試験でニュース原稿を読むとかもそうですよね。

四つ目は「ワークサンプル」。採用されたら行うであろう業務の一部または全てを、実際に候補者にやってもらうというものです。例えばエンジニアの募集であれば、実際にコーディングをして成果物等を作ってもらいます。インターンシップも、実際の業務にしっかり取り組むものであれば、このワークサンプルの一例に数えられると思います。ここでは、採用後一緒に働くことになるであろう社員とのコミュニケーションも含めて、クオリティの高い成果を上げた人を採用していくことになります。

次の手法は、「シチュエーショナルジャッジ」といって、業務の中で起こりうる状況や問題を示した上で、「あなただったらどうしますか」と候補者に解決策を説明してもらうやり方です。先程のワークサンプルを用いれば当然こういった課題解決の能力も見ることも出来るのですけれど、架空の状況でこういった時にどうしますかと聞く形なので、それよりもずっと少ない時間とコストで出来る点がこのシチュエーショナルジャッジのメリットとして挙げられます。

最後が「アセスメントセンター」と呼ばれるもので、候補者に専用の施設等に来てもらって集中的に選抜を行うやり方です。この場合、筆記試験や面接だけではなくて、心理テスト等によるパーソナリティ診断とか実技を伴うロールプレイも実施されるケースが多く、そのため、専門の施設や用具、あるいは専門家等のスタッフが必要になります。

こうした様々な手法について、冒頭に述べた妥当性が高いのはどれだと思いますか? 

日本では、適性試験等の認知能力テストと面接の組み合わせが多いかと思います。しかし、多くの研究を見てみると、認知能力テストは比較的妥当性が高いのに対して、面接による採用はブレが大きい事が分かっています。これは面接が採用手法としてよろしくないというわけではなくて、当たり外れが激しいということです。しかも、面接官がその場で直感的に思い付いた質問を繰り出す非構造化面接では、妥当性が結構低いことが知られています。このため、例えばGoogle等、科学的なデータを重視する企業ではできる限り非構造化面接のウェイトは小さくして、誰がいつ面接官を務めても採用プロセスにブレが出ないように構造化された面接を重視するようにしています。

しかし、実際にはGoogleのような事例はまだまだ例外的で、ほとんどの企業は面接をやりますし、そのプロセスについて大まかなガイドラインがあれば良い方です。質問の文言だとか順番を計画的に管理して、どういった質問をどういった順番で提示したら一番妥当性が高かったかについてPDCAサイクルを回しながら検証しているケースは、非常に少ない。ただし、これは面接する側の心理的なバイアス、もっとハッキリ言うと、「自分がこの目で見極めた」という手応えが欲しいというだけの、いわば思い込みによるところが実は大きいのではないかと思われます。実際には、認知能力テストや職務知識テストで「地頭」の良さや基礎的知識がある事を確認したら、実際に業務を任せてみるワークサンプルを課す方が最も妥当性が高いことが、世界中の色々な研究によって示されています。

今日のまとめです。企業の採用活動は、採用すべき人を採用し、採用すべきでない人を不採用にするという二点でその妥当性を評価することができます。採用にあたっては様々な手法があり、日本では多くの場合、認知能力テストと面接が用いられます。しかし研究からは、むしろスクリーニングをかけた上で実際の業務を任せてみるワークサンプルによる採用の方がより妥当性が高いことが示されています。

分野: リーダーシップ 対人・異文化コミュニケーション論 組織行動 |スピーカー: 松永正樹

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