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資金繰りについて②

平松拓 企業財務管理、国際金融

20/06/25

前回、「資金繰り」についての概説的なお話をしましたが、その際に、現金の「入り」を増やそうとして、売上を急いで伸ばすと、たとえ利益が出ている黒字企業でも倒産につながり得るというお話をしました。今回はそのことをもう少し詳しく考えて見ましょう。

企業などが「売上」を上げても、それで即座に現金が入って来るとは限りません。決済条件が「現金」ではなくて、「信用(いわゆる掛売り)」であれば、期日が来なければ現金が支払われないからです。それまでの間、売手は現金の代わりに「売掛金」を抱えることになります。また、「売上」を上げるために企業は通常、原材料・仕掛品・商品などの形で在庫を保有します。これ等売掛金や在庫などの資産は、売上の増加に伴い増加します。逆に、仕入れを信用で行う場合には、期日まで支払が猶予されますが、そのために負う債務が「買掛金」です。売上の増加に伴って仕入も増えることから、買掛金の残高も増えることになります。

これ等売掛金と在庫の残高から買掛金残高を差し引いたのが、何度かこの時間にも説明した「運転資本」ですが、多くの企業では売掛金と在庫の残高が買掛金の残高を上回るため、この運転資本に資金を投下しながら事業を行っていることになります。「多くの企業」と言ったのは、中には、逆に買掛金の残高が在庫や売掛金の残高を上回る企業もあるからで、そうした企業は仕入れ・生産・販売といった事業サイクルを回すことで資金余裕が生み出されることになります。

例えば、売掛金期間が長くなりがちな多くの中小企業のメーカーや新興企業、在庫を長期間抱える家具店や宝石店などでは、売上対比で大きな運転資本を抱えています。そうしたところが成長を狙って売上増を急ぐと、運転資本が利益を上回って急速に膨らみ、資金不足を生じかねません。これが黒字倒産発生の構図で、こした場面では資金繰りが重要となってきます。現金が不足する分借入が増やせれば良いのですが、企業の借入能力には界があるので、対処としては売掛金や在庫を絞って運転資本の効率化を図ったり、新規投資を圧縮したり、その他の保有資産の処分などが行われますが、それでも足りなければ、売上を抑えなければならなくなります。

逆に、現金販売中心で在庫もあまり持たず、仕入れは信用で行う流通業や飲食店などでは、運転資本はマイナスのところが多く、売上が増えると買掛金債務が増えることと引き換えに多くの現金が残ります。「日銭商売は強い」という言葉の背景には、こうした意味合いが含まれています。レベルには差がありますが、運転資本がマイナスのビジネスモデルを持つ企業の代表はアップルです。アップルは2000億ドルにも及ぶ巨額の現預金など手元流動性を抱えていますが、その内、凡そ200億ドルはこのマイナスの運転資本から生み出されています。売掛金と在庫の残高を大きく上回る買掛金を抱えるというアップルの事業モデルは、売上が成長すればする程大きな現金の余裕を作り出しています。資金の「やり繰り」という点での苦労より、寧ろ、売上増加に伴って湧いてくる現金の「使い道」に苦心していることが容易に読み取れます。

以上のような状況が、通常時における企業の運転資本と資金繰りの構図です。しかし、ここで注意しなければならないのは、運転資本がマイナスで資金が潤沢であることは、その分、利益そのものが増えているのではないということです。資金が潤沢なのは、利益によって資金がもたらされているのではなくて、自動的に「買掛金」という債務が立っているに過ぎず、普通ならば期日には返済しなければならないものが、事業サイクルが成立している間に関してはマイナスの運転資本分の返済を猶予されているに過ぎないということです。そのため、売上が全く立たないといった特殊な状況では、逆の状態が発生しすた。

具体的には、それまでは商流から現金が生み出され、資金繰り懸念が少なかった企業では、売上が立たなければ現金の「入り」が絶たれ、抱えている売掛金や在庫の残高も小さいことから、それらの回収や処分による「入り」も限られます。その一方、仕入れを止めても買掛金の残高が大きいことから、次々にその「払い」を迫られることになり、急速に現金が枯渇するのです。

これとは反対に、運転資本がプラスで、それまで資金繰りの苦労が絶えなかった所では、売上が立たなくなった時点で仕入れを止めれば、買掛金残高が小さいので以後の「払い」は少なく、他方、売上による「入り」が絶たれても、抱える潤沢な売掛金回収や在庫処分で当面は「入り」が続きます。つまり、資金繰り面でのダメージは、前者の方が大きくなります。

新型コロナ・ウィルスの感染拡大に伴う営業自粛に際して、商店や飲食店で即座に資金繰りが行き詰った背景には、こうしたビジネスモデルの違いの影響が考えられます。もっとも、こうしたビジネスモデルの違いが影響するのはせいぜい1~3か月程度のことで、売上減が続けば、いずれにしろ資金繰りへの影響は甚大となってしまいます。

まとめ:プラスの運転資本を抱える企業が成長しようとすると、資金繰りが大変になる傾向があるのに対して、運転資本がマイナスの業種や企業では寧ろ、現金が潤沢になる傾向があります。しかし、今回のコロナ・ウィルス感染問題の中では、売上が途絶えるといった特別な状況の下で、マイナスの運転資本という「債務」を抱える業種・企業へのインパクトが、逆により強いものとなって顕われてしまいました。

分野: ファイナンシャルマネジメント |スピーカー: 平松拓

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