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ブックレビュー(16) ジャレド・ダイアモンド(倉骨彰訳)『銃・病原菌・鉄』草思社

永田晃也 技術経営、科学技術政策

20/06/23

今回のまとめ: この本は1万3000年に亘って人類史に影響を及ぼしてきた要因に迫っており、ポスト・パンデミックの世界がどのような姿になるのかを展望する上での手掛かりを与えてくれます。

 今回はジャレド・ダイアモンドの『銃・病原菌・鉄』という本をご紹介します。新型コロナウィルスの感染拡大を防止するため世界的な規模で経済・社会が大きな犠牲を払うことになり、私たちの仕事や生活のスタイルも様変わりしました。このパンデミック後の世界がどのような姿になるのかは、多くの人々が関心を寄せる問題であり、この問題に対する展望を持つことは、政治家や政策担当者ばかりではなく、経営のリーダーにも求められるでしょう。この本は1万3000年に亘って人類史に影響を及ぼしてきた要因を明らかにしようとしており、今後の歴史的展望を模索する上での手掛かりを与えてくれるものです。原著は1997年に出版され、翌年ピュリッツアー賞などを受賞しています。
 著者のジャレド・ダイアモンドという人は、1937年に生まれ、現在、カリフォルニア大学ロサンゼルス校の地理学の教授を務めています。ただ、学位は生理学の分野で取得し、進化生物学などの分野でも顕著な業績を上げており、さらに本書のような歴史学の大著を書き上げている訳ですから、かなり多彩な学識を持った研究者です。
 ダイアモンドは、鳥類に関する研究のため長年、ニューギニアなどでフィールドワークを行っています。この本はダイアモンドが1972年にニューギニアでヤリという政治家に出会い、1つの質問を投げかけられたという回想から説き起こされます。それは、「あなたがた白人は、たくさんのものを発達させてニューギニアに持ち込んだが、私たちニューギニア人には自分たちのものといえるものがほとんどない。それはなぜだろうか?」という質問でした。ダイアモンドは、当時の自分には、その質問に答えることができなかったが、その後の研究を踏まえて25年後の答えを書いてみようと思ったというのです。

 現代の世界には、確かに不均衡が存在しています。その背景には、ヨーロッパ人によって、オーストラリア大陸や南北アメリカ大陸などの先住民が先祖を殺戮され、その土地を奪われたという事実があります。このヨーロッパ諸国による世界各地の植民地化は、1500年代に始まっている訳ですが、ダイアモンドは、その時点で既に大陸間には格差が存在していたという点に注目します。
 この格差がヨーロッパ人とアメリカ先住民の間にもたらした劇的な瞬間として、ダイアモンドは「カマハルカの惨劇」と呼ばれる事件を上げています。これは、スペインの将軍ピサロが率いる部隊と、当時アメリカ大陸で最大の国家であったインカ帝国の皇帝アタワルパが、1532年にペルーの高地カマハルカで出会ったときに起こっています。ピサロの部隊は僅か168人であったのに対してアタワルパは8万もの兵士に護られていたにも関わらず、ほんの数分後にピサロはアタワルパを捕え、世界最高額の身代金を奪った上、約束を反故にしてアタワルパを処刑してしまったという事件です。この時ピサロの勝利を決定づけたものは、馬、鉄製の武器そして銃器だった訳ですが、実は移住してきたスペイン人によって持ち込まれていた天然痘が、もう1つの重大な要因だったことが明かされます。この天然痘の大流行によって1526年にインカ皇帝と多くの廷臣が死去し、アタワルパと異母兄弟の間で王位をめぐる争いが起こり、インカ帝国は分裂して全土が混沌としていたのだと言います。
 ダイアモンドは、ヨーロッパ人が持ち込んだ病原菌の犠牲になったアメリカ先住民や非ユーラシア人の数は、彼らの銃や鉄製の武器の犠牲になった数よりもはるかに多かったと述べています。一方、新世界に侵略したヨーロッパ人は、致死性の病原菌にはほとんど遭遇していないのです。
 ダイアモンドは、このような違いが発生した原因をつきとめるため、さらに時間を遡り、最終氷河期が終わった紀元前1万1000年時点では世界の各大陸に分散していた人類は、みな狩猟採集生活を送っていたことに着目します。そして、その時点から西暦1500年までの間に、それぞれの大陸ごとに人類が異なる発展を遂げた経緯を、食料生産、動物の家畜化、文字の誕生と伝播など多岐に亘って詳細に検討していきます。その結果、ユーラシア大陸では群居性の動物が家畜化されたときに、それらの動物が持っていた病原菌が変化して人間に感染するようになり、天然痘、麻疹、インフルエンザ、ペスト、結核、チフス、コレラといった病気が、人が密集して暮す社会をたびたび襲い、それらの病気に対する免疫が自然にできあがっていったことを明らかにしています。
 ヤリの問いかけに対するダイアモンドの答えは、「人類の長い歴史が大陸ごとに異なるのは、それぞれの大陸に居住した人々が生まれつき異なっていたからではなく、それぞれの大陸ごとに環境が異なっていたから」だというものです。
 さて、今回の新型コロナウィルスは人々のグローバルな活動の波に乗り、1500年代にはあり得ない速度で各大陸に蔓延していきました。いずれの国、地域にも予め集団免疫は存在せず、その点では格差は存在していなかったように見えます。しかし、国の感染防止対策には明らかに差異があったようです。それがポスト・パンデミックの世界に、どのような形で新たな格差をもたらすことになるのかが注視されるところです。

分野: イノベーションマネジメント |スピーカー: 永田晃也

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