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全社戦略としての多角化

目代武史 企業戦略、生産管理

20/05/20

今日からは、企業戦略の中でも全社戦略と言われるテーマについて取り上げていきたいと思います。全社戦略は、複数の事業を営む企業が企業グループ全体の経営の方向性を示す構想や枠組みに関する戦略です。全社戦略は経営階層としては事業戦略よりも1つ上の問題を取り扱うと理解して頂ければ良いと思います。例えば、ある事業から別の事業に資金や人材を移動させたり、場合によってはある事業から撤退したりという判断は、1つの事業部のレベルではなかなか判断しかねる問題です。こういったものは事業群を束ねる本社レベルでの判断になってきます。この事業群を束ねる本社にとっての戦略が全社戦略というわけです。今日は、その中でも多角化という問題を取り上げたいと思います。

多角化とは、ある企業がその企業の内部に複数の事業を保有するようになる事です。世間に知られた大企業のほとんどは多角化企業でもあります。例えば、自動車メーカーのホンダはオートバイが始まりですが、これ以外にも耕運機や発電機、除雪機、草刈り機、ボートの船外機など様々な事業を展開しています。もちろん四輪車、いわゆる乗用車も作っていますし、さらにはホンダジェットによって航空機事業にも進出しています。他にも、ソニーはテレビやオーディオといった民生家電、シーモスセンサーなどのデバイス事業、プレイステーションなどのゲーム事業、ソニーピクチャーやソニーミュージックなどのエンターテイメント事業、更にはソニー銀行やソニー損保などの金融事業といった様々な事業に多角化展開をしています。

これは多角化が企業成長の重要な選択肢だからです。企業が成長していく道筋はアメリカの著名な経営学者、イゴール・アンゾフによって「アンゾフの成長ベクトル」としてまとめられています。これはいくつかのパターンがあるのですが、1つは今ある市場に今ある製品をさらに売り込んでいくという市場浸透という成長の方向性です。例えば、寝る前だけではなくて食事の度に歯磨きをする習慣を促すことが出来れば、歯磨き粉の需要はそれだけで3倍になりますよね。これが1つの成長の方向性ということになります。

2つ目の成長の方向性は、今ある製品を新しい市場に持ち込むことです。これを市場開発と言います。例えば日本のアニメを海外に輸出するというのは市場開発の一種と言えますし、子供向けと思われていたテレビゲームを高齢者向けにも売り込んでいくというのも市場開発と言えると思います。3つ目の成長の方向性は、今ある市場に新しい製品を導入していくことです。いわゆる製品開発というわけですね。例えば歯磨き粉の市場に液体歯磨きを開発して導入するようなケースです。そして、4つ目が新しい製品を新しい市場に投入する事ですね。これをアンゾフは多角化と呼んだわけです。

気になるのは、多角化戦略と経営成果の関係性だと思います。この分野で先駆的な研究を行ったのがカリフォルニア大学ロサンゼルス校のリチャード・ルメルト教授です。彼は1970年代に発表した研究で、アメリカの多角化企業のタイプと業績の関係を調べました。それによると、本業に近い領域で多角化している企業は利益率が高くなる傾向がある。また、幅広い領域に多角化している企業の売上高成長率は大きくなる一方で、利益率は若干低くなる傾向がある事を統計データとして示しました。これは最近の研究でも再確認されています。例えば、東洋大学の川上淳之准教授が財務省の法人企業統計を用いて多角化企業と非多角化企業の間で生産性の水準や伸びに違いが無いか分析したところ、多角化企業は非多角化企業に比べて生産性の水準は相対的に低い、一方で生産性の伸び率は高いということを示しています。多角化した1年後よりも10年後で見た方が伸び率は高くなる傾向にあるという事は、多角化戦略は長期的な視点で見ていかないといけないという事を示しています。

この研究のもう1つ面白い点は、製造業が別の製造業の分野に多角化する場合と製造業が非製造業に多角化する場合にはあまり違いが無かったということです。一方、運輸業・卸売業・宿泊・飲食・サービス業といった非製造業が製造業に多角化する場合には、短期的な生産性は上がるのですが、長期的には多角化しなかった企業よりも生産性が低下する傾向があるということです。要するに、非製造業においてはコア・コンピタンスから離れた領域への多角化は非効率性をもたらして生産性の低下を招くのではないかと言われているのです。やはり、本業に近い所への多角化が利益に結び付くという結果になっています。

今日のまとめです。今回は全社戦略としての多角化についてお話をしました。多角化とは、ある企業がその内部に複数の事業を保有するようになることを言います。これまでの研究によって、本業に近い分野での多角化は相対的に高い利益率や生産性をもたらし、逆に本業と遠い分野への多角化は売上高の成長をもたらす傾向がある事が示されてきました。何故そのようになるのか、そもそも、多角化が価値あるものになる為にはどんな条件が必要なのか。こういった問題については次回以降お話していきたいと思います。

分野: 企業戦略 生産管理 |スピーカー: 目代武史

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