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中央銀行電子通貨とリブラ(2)

平松拓 企業財務管理、国際金融

20/05/12

前回の話の中で、主要国の中銀によるCBDCの共同研究の背景には、中国でデジタル人民元の研究が進んでいることがあるという話と、共同研究にアメリカの中銀であるFRBが加わらなかった事が憶測を呼んでいるという話をしました。今日はそれらの点についてもう少し考えてみたいと思います。

デジタル通貨は、決済の面では非常に利便性が高いわけですが、個人情報の管理やマネーロンダリング対策の面では課題も多くあります。その点で、中国でCBDCが先行的に導入された場合、先進諸国にとっては脅威となると思います。と言うのも、デジタル人民元の計画は国内決済を念頭に置いたものだと説明されてはいるのですが、実際にそれが使えるものとなれば、中国が何時クロスボーダーの国際取引決済にも使おうとするか分かりません。国際決済でも使われるようになれば、そのデジタル通貨としての利便性と巨大化しつつある中国経済に対する信頼性の向上と相まって、デジタル人民元での国際決済が急増することも考えらます。

そうなると、決済についての情報管理や、マネーロンダリング対策等が中国当局の恣意的な取り扱いに委ねられてしまう恐れがあります。近年は国際秩序の構築や運営について、先進諸国と必ずしもスムーズに協調が進まない事象が目立つ中国ですので、先進諸国の側としては、これまでの秩序を壊すものとして警戒感を持っているだろうと思います。先進国中銀を共同研究に走らせた背景には、リブラと並んでデジタル人民元構想が読み取れる訳です。

もう一つの、FRBが今回の共同研究に加わらずに一歩距離を置いたという点については、現在の基軸通貨である米ドルを抱えることで米国が非常に大きな恩恵を享受していることがあります。基軸通貨として世界中で取引に使用されている米ドルは、それ故に巨額の資産が世界中で保有されています。大量の米ドル紙幣が途上国を中心に流通してもいます。紙幣はいわば発行した中央銀行の債務ですが、それは何かの購入支払に使われながら、紙幣が海外市場で転々流通する間は、発行者は債務の返済を迫られる事はありません。こうした通貨発行差益をシニョリッジと言いますが、米ドルが基軸通貨である事によって、アメリカは巨額のシニョリッジをエンジョイできています。

その構図に挑戦しようとしているのが中国です。事のきっかけは2008年のリーマンショックにありました。中国はこれをアメリカの政策の失敗と捉えていましたが、米ドルの為替相場が急落した事で、ほとんどを米国債で運用してきた中国の外貨準備の価値が大きく毀損しました。この経験から、米ドルが基軸通貨として世界でほぼ独占的に国際決済や外貨準備として用いられている状況に疑問を持って来ました。

そもそも、何故米ドルが基軸通貨として独占的な地位にあるのかと言えば、各国がそれぞれ異なる通貨を用いて決済するより特定の通貨一つに絞って取引を決済した方が利便性も高く取引コストも安いからです。そして、どの通貨を用いるかという事になれば、最も信頼性が高くて、安定性と安全性に優れる米ドルが最も合理的という事になる訳です。更に、米ドルの持つ基軸通貨の条件に近づいてくるような通貨が現れたとしても、一旦基軸通貨としての地場を固めてしまった通貨を取り換えるには、膨大なエネルギーとコストがかかるわけです。これを慣性が働くと言いますけれども、そのせいでよっぽど利便性の点ですぐれないと、どんな通貨も米ドルにとって代わるのは困難といえます。

ところが、米ドルに挑戦する新たな通貨が、今の米ドルを大きく凌駕する強みを持っている場合には、その限りではありません。この点、デジタル人民元に限らずデジタル通貨は、課題も多くありはしますが、可能性を持っていると言えます。そのため、米ドルに対抗する可能性を持つ脅威としてアメリカの通貨当局が捉えたとしても不思議ではありません。もし、基軸通貨の座をどこかのデジタル通貨に取って代わられる事態になれば、あるいはその可能性が見えてきただけでも、世界中にばら撒かれている米ドルの紙幣や米ドル建ての資産について、一斉に弁済を迫られることになり、アメリカ政府や経済が破綻の危機にすら晒される可能性があります。

こうした点で、基軸通貨米ドルを抱える米国通貨当局FRBは、CBDCや中国のデジタル人民元に対するその他の先進国の中央銀行とは基本的に立場を異にしているわけです。前回の繰り返しになるかもしれませんけれども、リブラなのかCBDCなのか具体的な形はまだ見えないわけですけれども、いずれにしろ、現在のアナログ通貨がデジタル通貨にとって代わられる時代が朧気ながら見えてきた今、この行方がどうなるかは非常に興味深いところです。

今日のまとめです。米国の通貨当局は、リブラ問題にしろCBDC問題にしろ、日本を始めとする他の先進諸国の通貨当局とは、米ドルという基軸通貨を抱えるという点で立場を異にしています。これからの国際的なデジタル通貨に関する議論を理解するためには、こうした点を理解しておく必要があります。

分野: ファイナンシャルマネジメント |スピーカー: 平松拓

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