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組織の規模とコンプライアンスの制度設計

平野琢 企業倫理、リスクマネジメント

20/03/20

以前、企業全体でコンプライアンスを行うためには、社内に規則を作ったり、教育研修を行ったり(専門用語でコンプライアンスの制度化とかシステム作りといいます)、このような仕組みを構築しなければならないということを話しました。実は、これを聞いたある方から、「小さな企業ではそもそもこういうものを作るのは難しい。ただ、会社は成長しつつあるので、会社がどのくらいの規模になったらこれを行うべきなのか」という質問をいただきました。今日は組織がどのくらいの大きさになったら、このようなコンプライアンスの制度やシステム構築が必要になるのか考えてみたいと思います。

企業において、コンプライアンスの制度やシステムを作ることは非常に一般化してきました。いま、ヒアリングに行くと、大手のほとんどの企業においては制度やシステムを構築しています。やはりこのような大規模組織では制度やシステムを構築しない限り、組織全体がコンプライアンスを達成するということはなかなか難しいです。ただ、中小の企業にヒアリングに行くと、「うちの企業は規模が小さいからみんなの顔も見えているし、制度やシステム作りは不要と考えています」という話を聞くことも少なくありません。それでは、実際にこれらの企業を深く調べてみると、なるほど社員の顔が全員見えているせいか、このようなコンプライアンスの制度やシステムを構築しなくても、コンプライアンス違反などの問題は生じていませんでした。別の企業、この企業は近年急拡大した企業ですが、これを調査した際には、規模が小さかった時には社長の背中がよく見えていて、何もしなくてもコンプライアンス違反などなかったけれど、規模が急に大きくなり始めた頃から色々な問題が出始めた、という話がありました。

どうやら、コンプライアンスを達成するために制度やシステムを構築することが不可欠になるきっかけというのは、組織の大きさとかなり関係があるみたいです。実際に経営学者のハーバート・A・サイモンも、「一人の人間が安定した関係を維持できる人数には限界がある」と指摘しています。

実際、どのくらいの規模を超えたらマネジメントが必要になるのかという点について、実は経営学や組織学ではなく、人類学の視点から非常に興味深い示唆を得ることができると思っています。イギリスの人類学者であるロビン・ダンバー氏は、霊長類の調査から霊長類の脳の大きさと、その動物の平均的な群れの大きさには相関関係がある事を見出しました。ダンバーはヒトが霊長類の中で最大規模の集団生活をおくっている背景には、この複雑な社会、集団を扱えるだけの大きな脳を持っている動物だからだと主張しています。そしてダンバーは平均的な人間の脳の大きさを計算し、かつ、霊長類のデータから推定することによって、特に明文化された規則やシステムがなくても一人の人間が関係性を維持できる規模の人数を算出しました。その算出した人数を、約150人程度と提案しています。この数をダンバー数と呼ぶのですが、このダンバー数、つまり150人を超えると多くの場合において、集団の団結と安定性を維持するためには何らかの規則とか明文化されたシステムが必要になると考えられています。

つまり150人を超えると、一人の人間では安定した関係性をマネジメント出来なくなってしまうということなのです。小学校に入学するときに、「友達100人できるかな?」という歌がありましたが、ダンバー数を元にすれば、友達150人を超えたら友達はマネジメント出来ないと言うことになる訳です。

もちろん、このダンバー数には批判もあったり、そもそもその数値には異なりがあるのではないかという意見も存在します。また、近年の研究においては150人ちょうどではなくて、100人から250人くらいが限界なのではないか、と考えられています。いずれにせよ、一つの提案としては非常に興味深いものがあると思います。ではこれらの話を先ほどのコンプライアンスマネジメントの話にひきつけた場合はどういう風に考えられるかという話なのですが、恐らく組織の規模が100人から250人を超えたあたりで、何らかのシステム構築をしなければならなくなるのではないか、と考えられます。やはりその人々の関係性とか文化とかそういうものにも影響されるのではないかと思います。ダンバー数はその点に関してはもう少し精査が必要な議論なのかもしれません。ただ実際に、京セラの創業者である稲盛和夫氏の著書「アメーバ経営~ひとりひとりの社員が主役~」には大変興味深い記述があります。この本の中で稲森氏は京セラの組織が急成長した時期を振り返って、次のように述べています。「会社の規模は急速に拡大し、最初は28名だった従業員も5年もしないうちに100名を超え、やがて200名、300名と増えていった。」「中小企業と腫れ物は大きくなると潰れるというように、中小企業がどんぶり勘定のまま大きくなれば、管理不可能になり潰れるとよく言われているが、当時の京セラはすでにその状況に近づいていた。」更に「そんなある日、従業員が100名の頃までは一人でやれたのだから、会社を小さな集団の組織に分けたらどうだろう、と突然閃いた。」と記述しています。ダンバー数の言う250名を超えたあたりで、組織のマネジメントが課題を抱えたこと、そしてそれ以下の時代は一人でやれていたというこの記載の事実は、非常に興味深いものがあります。稲盛和夫さんは自分自身の皮膚感覚、肌感覚としてそれを感じていたということです。おそらくこの時期はまだダンバー数が提唱されていなかった時期なので、それを実体験で理解されていたということになるかと思います。

今日のまとめ:
どのくらいの大きさになったら、コンプライアンスの制度やシステムの構築が必要になるか、という点は非常に解決が難しい問題です。ただ、今日話したこのダンバー数を元に考えた場合、組織の規模が100名から250名を超えたあたりで、明文化された社内規則や教育システムなど何らかのコンプライアンスの制度設計をする必要が出てくると言えるかもしれません。

分野: 企業倫理 経営リスクマネジメント |スピーカー: 平野琢

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