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心と脳の関係(フィニア・スゲージのお話)

三上聡美 産業組織心理学、社会心理学

20/03/24

今日は、「心と脳の関係」についてお話します。
「心と脳は関係があるのか」については、心理学の分野だけではなく、哲学の分野や認知科学の分野でも議論がなされているところですが、未だこれといった結論は出ていない気がしています。数年前、リハビリの専門学校で心理学の講義を担当した際に、「心はどこにありますか」と学生さん達に質問したところ、多くの学生が凄く自信満々で「脳にある」と答えていました。おそらくリハビリの学校だったので、他の授業で体や脳についての講義を受けたところだったからこそ、皆自信満々に答えたのかもしれません。

皆さんは、「心はどこにありますか」と聞かれたらどんな風に答えますか。

「心臓の位置にある」と思っているという方もいらっしゃるでしょうし、色んな知識を得た上で色んなことを考えるのは脳で、脳が色んな事を司っているということで「頭にある」という方もいらっしゃると思います。

少し話は変わりますが、「心はどこにありますか」の質問をする時に、私が必ず思い出すエピソードがあります。それは、私が小学校の5年生の理科の授業の話ですが、理科の先生が「命はどこにあるでしょうか」という質問を投げかけてきました。

皆さんは、「命はどこにあるでしょうか」と聞かれたらどんな風に答えますか。

当時、私は心臓が止まったら死んでしまうので「心臓」と答えました。先生からは「それは違う」と言われました。理科の先生の答えは、「命は体全体」でした。なぜかというと、「背が伸びたり、髪や爪が伸びたり、命があるからこそ人は成長していくんだ」と言っていた記憶がかすかにあります。理科の先生の答えが正しいのかどうかは今でも分からないのですが、「命と心」、そして正しい答えが分からないという点では、「心はどこにあるのか」ということと、「命はどこになるのか」という問いは、なんだか似てる気がします。

話を「心と脳の関係」に戻しますが、今日は、心と脳は関係があるかもしれないと言えるフィニアス・ゲージという人の話をしたいと思います。

フィニアス・ゲージは鉄道建設の現場監督の仕事をしていました。仕事中にダイナマイトを仕掛けるという作業をしていましたが、仕掛けたダイナマイトが爆発しなかったため、鉄の棒でダイナマイトを突ついてみたところ、そのダイナマイトが爆発してしまい、手に持っていた鉄の棒がフィニアス・ゲージの頭を貫通してしまったそうです。これは1848年、フィニアス・ゲージが25歳の出来事でした。鉄の棒は頭の上から左顎の後ろのあたりに貫通し、かなりの大事故だったわけですが、なんとフィニアス・ゲージは数ヶ月の治療の後、奇跡的に職場に復帰出来たそうです。残念ながら、左の目は見えなくなってしまったのですが、右の目はちゃんと見えていて、物を持ったり歩いたり、日常生活の問題は特になかったそうです。フィニアス・ゲージは元々現場監督として周りからも慕われていて、職場の復帰も待ち望まれたそうです。そんな彼がこの事故をきっかけに、ガラッと人が変わったようになったそうです。事故が起きる前温厚だった性格は、事故の後は感情の起伏が激しくなり、人に対する礼儀を失ってしまいました。事故前は、計画通りに物事を進められる有能さを持っていましたが、事故の後は仕事に対して気まぐれになってしまい、計画通りに物事を進められなくなってしまいました。また、その他にも言葉に一貫性がなくなったり、女性に卑猥なことを言ったり、同僚には喧嘩を売るようにもなってしまったそうなんです。こんな状況になってしまったため、フィニアス・ゲージは現場監督が務まらなくなってしまい、職を転々とすることになってしまったそうです。そして1860年に彼は亡くなったそうです。

彼が亡くなった後、彼の頭蓋骨は保管されることになりました。後に神経科学者のチームがフィニアス・ゲージの頭蓋骨を基に、脳のどこの部分が損傷したのかを調べました。調べた結果、脳の左側の前頭前野の眼窩野という場所と、前頭葉の先端部が壊れた可能性が示唆されたそうです。つまり、左目の上の辺りの脳が損傷していたそうです。脳の前頭前野の部分は、「ワーキングメモリー」の実行機能の働きがある場所だと言われています。

「ワーキングメモリー」とは、「作業記憶」とも呼ばれていて、計算や暗算、ちょっとした会話などを短時間で作業するための記憶になります。例えば、相手の言葉に返事をするなどその場の空気に馴染むような行為をする際には、意識的か無意識的か割と短い時間で判断します。短時間で判断出来なかったら、会話がうまく繋がらなかったり、周りをドン引きさせる言動をしてしまったりすることもあるかと思いますが、フィニアス・ゲージはその短時間で作業を行うワーキングメモリーの機能がある部分の前頭前野が損傷してしまったがために、色んな判断が事故前よりも出来なくなってしまい、事故の前後で性格や言動が変わってしまったのではないかと言われています。そして、眼窩野は物事の意思決定に重要な役割がある部分だと言われています。そのため、眼窩野が壊れたことで、十分な判断が出来なくなってしまったのではないかと言われています。フィニアス・ゲージは仕事中の事故によって、大怪我になって脳が損壊してしまい、感情や言動が事故前と変わってしまいました。この事例から考えると、心は脳にあるのかもしれないと考えることが出来ます。

では、今日のまとめです。
「心はどこにあるのか」、「心と脳は関係があるのか」という議論はずっと続いています。もしかすると「心の一部は脳にあるのかもしれない」と考えられる1848年に起こったフィニアス・ゲージの事故についてお話しました。

分野: 社会心理学・組織心理学 |スピーカー: 三上聡美

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