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パテントボックス税制

永田晃也 技術経営、科学技術政策

20/03/18

 今日は「パテントボックス税制」という制度についてお話したいと思います。
 この制度には、まだ統一的な定義がないようですが、後述する経団連の提言では「知的財産権に起因する所得(ロイヤリティ、知的財産権の譲渡益、知的財産権を利用して製造した商品の販売益で一定のもの)について低税率または所得控除を適用する」税制として説明されています。なお、この制度上の概念を知的財産権以外にも拡大した制度として「イノベーションボックス税制」があるとされています。
 以前この番組で解説した「研究開発税制」は研究開発段階で行われる投資活動に対して優遇措置を与えるものですが、パテントボックス税制やイノベーションボックス税制は、研究開発活動の成果である知的財産権などから発生する所得について税の軽減を認めるという制度です。
 パテントボックス税制は、2001年にフランスで導入されたことを皮切りに、ベルギー、ハンガリー、ルクセンブルグ、オランダ、スペインといったEU諸国での導入が進展しました。このEU諸国の制度については、特許庁の委託により税理士法人であるプライスウォーターハウスクーパースが2013年にまとめた「欧州のパテントボックス税制」というレポートで詳しく紹介されています。このレポートによると、EU諸国によるパテントボックス税制の採用は、リスボン戦略に由来しているようです。リスボン戦略とは、ポルトガルの首都であるリスボンで開催された欧州委員会で2000年3月に採択された10年間に亘る経済・社会発展計画であり、そこではEUを世界で最も競争力があるダイナミックは知識基盤経済圏に移行させるための政策が合意されています。
 EU諸国が、このような長期戦略の一環としてパテントボックス税制を重視しているのは、この制度がイノベーションを推進する効果を持つとともに、企業にとって知的財産を自国内に保留する誘引になるものと期待されているからです。グローバルに事業を展開している企業では、本社のほか海外の子会社でも知財が発生します。それらの知財は、本社で集中的に管理することもできるし、海外子会社で管理することもできるわけです。本社で集中管理する場合、海外子会社には知財のライセンスを付与し、本社はライセンス収入を獲得することになります。利益の源泉となる知財が保有されている国に、そこから派生する所得が帰属することになるのです。ところが、海外にタックスヘイブンと呼ばれる著しく法人税率の低い国があると、企業はそこで知財を集中管理することによって節税することが可能になります。パテントボックス税制は、このような節税を目的とする知財の国外流出を防ぐ効果があると期待されている訳です。
 こうした効果に対する期待から、法人税率が比較的高い我が国でもパテントボックス税制の導入を要望する声が高まりました。経団連が2012年10月に発表した「平成25年度税制改正に関する提言」は、我が国の「研究開発拠点としての立地競争力を維持・強化するためにも、欧州諸国ですでに導入されている当該制度の創設を急ぐべきである」と主張していました。
 では、実際にパテントボックス税制には、イノベーションを促進し、知財を国内に保留させる上での大きな政策効果があるのでしょうか。この制度の歴史はまだ20年程度であるため、その経済的な効果に関する実証研究は多くはないのですが、岡室博之と西村淳一という二人の研究者が経済産業研究所から2019年に発表している「中小企業の研究開発およびイノベーションの促進」という論文の中で、興味深いレビューを行っています。それによると、先行研究では、「パテントボックス税制はコストが高く、各国政府は通常、特許出願を増加させるために非常に低い実効税率を適用しなくてはならず、かなりの歳入減少につながっている」こと、「パテントボックス税制による恩恵のほとんどは大企業(特に多国籍企業)が手中にしている」こと、また「研究開発およびイノベーションに対する他の税制上のインセンティブの方がパテントボックス税制より効果的である」ことなどが明らかにされているというのです。
 これらの先行研究は日本企業を対象としたものではないので、その知見から直ちに日本における政策効果を予測することはできません。しかし、日本企業から海外子への知財移転が進展しているというデータがないことなどに鑑みると、その政策効果はいまだ不透明だと言わざるを得ないでしょう。

今回のまとめ: パテントボックス税制とは、知的財産権から発生する所得について低税率または所得控除を適用する制度であり、イノベーションを促進し、知財の国外流出を防ぐものとして欧州での導入が進展しましたが、その経済的な効果はいまだ不透明です。

分野: イノベーションマネジメント |スピーカー: 永田晃也

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