QTnet モーニングビジネススクール

QTnet
モーニングビジネススクールWeb版

FM FUKUOKAで放送中「QTnet モーニングビジネススクール」オンエア内容をWeb版でご覧いただけます。
ポッドキャスティングやブログで毎日のオンエア内容をチェック!

PODCASTING RSSで登録 PODCASTING iTunesで登録

タグ

戦略的提携(6):ホールドアップ

目代武史 企業戦略、生産管理

20/03/11

今日は戦略的提携における「ホールドアップ(hold-up)という問題についてお話したいと思います。戦略的提携が結ばれるためには、必要条件としてパートナーシップを組む企業同士に共通の利益なり目的がないといけません。とはいえ、パートナー同士の利害が完全に一致しなければならないというわけではありません。提携に携わる企業は、パートナーとの共通の目的や利益を尊重しつつ、自社にとって最も利益が大きくなるようにふるまうのは、合理的かつ自然な企業行動といえます。この戦略的提携を成功に導く上で障害となるのは、パートナー企業がそれぞれ合理的に行動しようとした結果として引き起こされることが多いです。今回紹介する「ホールドアップ」もそうした問題の一つです。

では、ホールドアップとは何か、直訳すると「手をあげろ」、つまり銃口を突き付けられて犯人の要求を受け入れるように脅されている状況です。ビジネスの現場では、ホールドアップ問題というのはしばしば発生します。それを企業戦略論の大家であるアメリカ・ユタ大学教授のJay Barneyは次のような例を挙げています。

今ここに、製油所と石油採掘場を所有する石油の精製会社と、パイプライン事業を有する石油運搬会社の2つの会社があるとします。この石油精製会社は、タンカーが接岸出来るような港の近くに製油所を持っています。原油は10キロぐらい離れた場所にある石油採掘場から運んでいます。現在はその石油採掘場から石油の精製所へはタンクローリーなどを使ってトラック輸送をしています。ただこれはとてもコストがかかっているという状況です。そこで石油の運搬会社が来て、「ある一定期間、例えば5年間、我が社のパイプラインを独占的に使い、前もって取り決めた価格で原油を輸送してくれるなら、喜んで産油地と製油所の間にパイプラインを建設しましょう」という取引を提案します。当然、パイプラインによる原油の輸送はトラック輸送に比べればはるかに効率的で、石油精製会社もメリットがあるし、運搬会社もビジネスチャンスになるので、晴れて合意に至り、5年間無事に契約が履行されました。問題は5年後、契約を再交渉する時です。この戦略的提携は元々お互いにとってWin-winの状況だから、そのまま契約更改になるかと思いますが、実際には石油運搬会社は深刻なホールドアップの危機に晒されています。

どういうことかというと、まず石油の精製会社の場合、彼らからするとパイプラインが一番良いですが、効率が落ちるとはいえ、トラック輸送という代替的な手段があります。ところが石油の運搬会社の場合、今回敷設したパイプラインは、採掘場と製油所の間で原油を輸送している限り価値があるものの、そうでなければこの巨大なパイプラインは単なる鉄くず以外の何物でもないということになるわけです。このような状況では、石油の精製会社と運搬会社の間で、非常に大きな交渉上のアンバランスが生まれます。石油精製会社からすると、パイプラインが他の用途に転用出来ないことは知っているので、石油運搬料金の引き下げを強力に進めることが出来ます。「この条件を飲まなければ、契約を打ち切るぞ」と、まさに銃を突きつけるような交渉が出来るわけです。

一方で石油運搬会社の方は、契約を打ち切られてしまえば、パイプラインの価値はほぼ0ですから、石油精製会社の条件を飲まざるを得ないわけです。この提携によって生まれた成果自体はお互いにとってWin-winだけど、この提携をもたらすために行った投資の在り方には、2つの会社の間で差があったのです。こうした投資のことを経営学では「取引特殊的投資」といいます。こうした取引特殊的投資をした側は、その投資が他の用途に転用出来ないがゆえに相手の言いなりにならざるを得ず、ホールドアップの状況に追い詰められる可能性がかなり高くなってしまいます。

ホールドアップ対策として、①取引特殊的投資を避け、出来る限り投資内容を汎用性の高いものにすることがあります。投資が取引特殊であるからこそ、ホールドアップが発生するわけですから、投資やスキルの汎用性を高めるということになります。②不測の事態に対する予見可能性を高めておくことです。ある種、どうしても取引特殊的な投資をせざるを得ない場合に、出来る限り将来何が起こり得るかを綿密に分析し、契約の中に織り込んでいくことが重要になります。取引をするから逆に脅される可能性が出るので、そういった場合には、③自社で内製化してしまう、内部に取り込んでしまうということも1つの解決策になります。

今日のまとめ:
今回は戦略的提携を脅かすリスクとしてホールドアップを取り上げました。ホールドアップというのは提携パートナーの一方が取引特殊的な投資を行った場合に、もう一方が取引特殊的投資が他に転用が効かない、つまり潰しがきかないことに付け込んでくるという、機会主義的な行動を意味します。その対策には①締結時に様々な事態を織り込んだ契約としておくこと、②取引特殊的な投資を避けること、あるいは③自社で内製化することがあげられます。

分野: 企業戦略 生産管理 |スピーカー: 目代武史

トップページに戻る

  • RADIKO.JP