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戦略的提携(5):モラルハザード

目代武史 企業戦略、生産管理

20/03/10

今日は企業同士の戦略的提携のリスクの中でも、モラルハザードと呼ばれる問題をとりあげてみたいと思います。このモラルハザードという言葉は「モラル」=道徳、品行という意味、「ハザード」=危険、障害という意味からきています。直訳すると、道徳や品行が危機に晒されたり、欠如したりすること、ということになります。この言葉がよく使われるのは保険の分野です。病気や事故、火災などのリスクがある時に人は保険に加入します。それによってリスクが発生した時の損害を軽減しようというわけです。

ところが保険に入ってしまうとそれで安心してしまい、逆に健康に注意を払わなくなったり、事故や火災を予防するための慎重さを失ってしまうということもあります。このように保険に入ることでむしろリスクを伴う行動をしてしまう状況が「モラルハザード」といわれるわけです。

もう少し整理してみたいと思います。保険会社は、保険に加入しようとする人が出来るだけ注意深くあって欲しいと考えます。一方で保険に入る側はどうかと言いますと、もちろん世の中には保険に入った後も自分の健康管理や車の運転に注意を払う人がいる一方、保険に入ることで安心してしまい、加入前の注意深さを失ってしまうというケースもあります。つまり保険会社と被保険者との間で保険に対するある種の利害が乖離する状態が生まれてしまうことがあり、モラルハザードが発生する原因の1つです。

もう一つモラルハザードを発生させる原因があります。それが「情報の非対称性」と言われるものです。情報の非対称性とは、経済取引において取引に関与する個人や企業の間で、お互いに持っている情報の量や質に格差がある状態を言います。このような状況というのは戦略的提携におけるパートナー企業との関係でも発生することがあります。

例えば海外市場に進出する際に現地企業と戦略的提携を結ぶというケースを考えてみたいと思います。この提携事業を成功させるために、お互い最善の努力をしてノウハウを共有すると約束したとします。ところがいつまで経っても事業が軌道に乗らないということはよく起こるわけです。パートナーにお願いしている現地企業での宣伝報告や、販売チャンネルの開拓がうまくいってないように見え、こちらから販売促進体制のテコ入れや、店舗運営の改善を提案しても現地パートナーからは「ブランドイメージの浸透には時間がかかる」「現地市場のことはうちの方が良く分かっているから心配するな」とか、適当なことを言われるわけです。

こういった状況に陥った場合は、もしかしたらモラルハザードの状態にあるかもしれません。これは提携パートナーのモラルの欠如というある種の精神論の問題とは必ずしも言い切れません。モラルハザードが生まれる背景にあるのは、一般的には利害の不一致と情報の非対称性です。

例えばこの現地パートナーとの契約の例で言うと、現地市場における販売促進業務や店舗運営業務に対して業務委託費を払うようなケースの場合、彼らからすると業務を遂行すれば収益を得られるわけで、言い換えれば業務の成果にはもしかすると関心を持たないかもしれません。ここに利害の不一致、あるいは理解の不一致が発生する可能性があるわけです。そこでこの問題を解決するためにインセンティブの設計が重要になってきます。

インセンティブの設計は、現地のパートナーに成果の向上にもっと経営努力を傾けてもらうよう、例えば成果連動型の報酬システムを導入するなど、収益を分け合うような誘因を導入することです。ただし、インセンティブの仕組みを改善しても、こちらの目が届かないことをいいことに、いい加減な仕事をするかもしれません。こういった問題を防ぐためには、モニタリングの仕組みを見直す必要があります。提携パートナーを信頼するというと聞こえは良いのですが、相手に任せっぱなしにするのはリスクがあります。そこで現地での業務やプロジェクトの進行に対して、毎週なし毎月報告をするようなシステムを導入したり、こちらからも人材を送り込んだり、ということが重要になってきます。

実はこうした問題は、経済学や経営学では理論的には「プリンシパル・エージェント問題」「エージェンシー理論」と呼ばれています。プリンシパルというのは特定の経済活動を委託する人、エージェントとはプリンシパルからその経済活動を委託される人のことを言います。この委託する人/される人の関係は、例えば株主と経営者の関係、上司と部下の関係、あるいはM&Aにおける買収企業と被買収企業の関係など、非常に広範な経営現象に見られます。戦略的提携においても提携パートナーとの間で委託する、委託される関係が発生するために、「エージェンシー理論」が当てはまります。

今日のまとめ:
戦略的提携を脅かすリスクの1つに「モラルハザード」があります。これは提携パートナーが提携前に約束した水準の努力や能力を提供しないことを意味します。モラルハザードというのは直訳すれば道徳の危機やモラルの欠如ですが、実践的にはパートナーとの利害の不一致や情報の非対称性といった要因が原因となっています。従ってモラルハザードの予防には利害の非一致を解消するインセンティブの設計や情報の非対称性を軽減するモニタリングの仕組みの導入といった取り組みが重要になります。

分野: 企業戦略 生産管理 |スピーカー: 目代武史

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