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キーワードで理解するイノベーション・マネジメント (60) 信頼

永田晃也 技術経営、科学技術政策

20/02/11

今日は「信頼」という語を取り上げてみたいと思います。以前、この番組でも信頼については社会関係資本(Social Capital)―つまりコミュニティや集団の力となる協力的な人間関係を構成する要素として解説したことがあります。経営研究の領域では、従業員の間に信頼関係が存在する企業では明らかに生産性が高いという事実発見が行われてきましたし、企業が顧客から獲得した信頼は、その企業にとって重要な経営資源になるということも指摘されてきました。こうしたことから、イノベーション・マネジメントを理解する上でも、この語は重要なキーワードになる訳ですが、今日は信頼の概念や、信頼を獲得するための要件について少し本質的に考えてみたと思います。

実は、今回の話を用意するに当たって、私は以前作成した信頼に関する文書を自分のパソコン上でキーワード検索したのですが、その結果、ゴミ箱に捨てていた膨大なスパムメールが検出されたことに驚きました。これは信頼という語が怪しげな広報文書の中で人を安心させるための惹句として用いられることが多いということを物語っています。そこで、本当の信頼と、似非信頼を見分けるため視点について話してみたくなった訳です。

さて、信頼については、経済学、経営学、社会学、政治学、心理学などの諸分野で非常に多くの定義が試みられてきました。私自身は、ニクラス・ルーマンという社会学者が、信頼とは「人々が意味を組み立てる過程に介在するコミュニケーション・メディアである」とした定義が最も本質的なものだと思っていますが、比較的多くの定義は、他者の行動に対する「期待」という要素を含んでいるようです。例えば、フランシス・フクヤマという政治学者は「コミュニティの成員たちが共有する規範に基づいて規則を守り、誠実に、かつ強力的に振る舞うことについて、コミュニティ内部に生じる期待」と定義しています。また、心理学者の山岸俊男教授は「社会的不確実性が存在している状況の中での、相手の行動傾向についての知識に基づく相手の意図に対する期待」と定義しています。

ところが経済学の分野では、この期待をさらに確率によって厳密に定義しようとする試みがあります。相手に対する信頼というものを、その人が期待どおりに行動すると信じられる確率として定義する訳ですが、私はこのような定義には全く賛同できません。例えば、上司がある部下にプロジェクトのリーダーを任せることを決定した際、その部下に対して「君が50%の確率でこのプロジェクトを成功させると信じている」と伝えたら、部下はどう思うでしょうか。おそらく、この上司は自分のことを全く信頼していないと受け取り、それこそ上司に対する信頼が損なわれることになるでしょう。こういう上司は、プロジェクトが不成功に終わった場合、自分は精々50%程度しかリーダーを新任していなかったのだと主張し、プロジェクトのリーダーを選任したことに対する責任逃れに走るのが落ちです。

一方、上司が部下の経験や能力を十分に考慮した上で、単に「君はこのプロジェクトを成功させると信じている」と伝えてリーダーを任せた場合、おそらく部下は懸命に上司の信任に応えようとするでしょう。そして、不幸にしてプロジェクトが不成功に終わった場合でも、上司が自らマネジメント上の責任をとろうとするならば、部下は上司に対する信頼感を強め、次の機会には必ず上司の信頼に報いたいと思うでしょう。上司の期待は一旦結果的に裏切られている訳ですが、こういう組織では上司と部下の間に強い信頼関係が構築されるに違いありません。

ロバート・ソロモンとフェルナンド・フロレスが著した『「信頼」の研究』という本があるのですが、彼らはその中で「信頼が単にリスク及び有利さの確率の計算である限りは、それは本物の信頼(Authentic Trust)ではない」と述べています。本物の信頼に基づいて決定を行う人は、その決定にコミットメントすることになる訳です。
そもそも50%の確率で信頼するなどという言明は、半分死んでいるというのと同じ位、無意味な表現です。また、信頼という言葉を顧客を安心させる惹句くらいに考えている企業ほど、100%の信頼などと確率を持ち出したがるものです。この点は、信頼できないものを見極めるポイントの1つと言えるでしょう。

今回のまとめ: 信頼を確率で定義することはできません。本物の信頼に基づく意思決定は、その決定に対する責任やコミットメントを含むものです。そのような決定は結果的に裏切られても、新たな信頼関係を構築する元になります。

分野: イノベーションマネジメント |スピーカー: 永田晃也

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