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WTOのはなし(その2)

平松拓 企業財務管理、国際金融

19/11/07

 前回の「WTOのはなし(その1)」では、WTOの来歴、そして前身のGATT時代には貿易の自由化に大きな実績を残したのに対し、より広い分野における国際取引の新たなルール作りが期待されたWTOとなってからは、機能不全に陥って期待されたような成果が上がらずに、改革の必要性が叫ばれていることを説明しました。今回は、WTOが持つ、加盟国間の紛争処理の機能についてお話します。

 GATT時代には、加盟国間の貿易取引等で紛争が生じた場合、二国間による協議が重視されていました。つまり、紛争は基本的には当事者間で解決するものとされ、決着がつかない場合には、GATTにおいてパネル(小委員会)を設けて議論する道も設けられましたが、そのパネルの設置には加盟国による議決が必要とされていました。そのため、当事者間で決着がつかない場合、往々にして解決が長引くこととなりました。

 WTOでも、紛争の解決手続きの第一段階は、当事者二国間の協議で解決策を得るべく努力することとなっています。しかし、その協議(通常60日以内)で解決できない場合には、全加盟国により構成される紛争解決機関(Dispute Settlement Body : DSB)にパネルの設置を申し立てることができ、DSBは、パネルを設置しないことについてのコンセンサスが存在しない限り、パネルの設置を行うことになっています(パネルでは、当事国がお互いの主張について意見書を提出すると共に、会合に出席して自国の主張の正当性を主張します)。パネルは原則として設置後6か月の内に決定を行い、DBSに報告書を提出することとされています。

 違いはそれだけではなくて、WTOでは二審制をとっており、パネルの決定に対して当事国のいずれかが異議を持つ場合、上級委員会に申し立てることが可能になっています。上級委員会は申し立て後、原則60日(実際は通常90日)の内に決定を行い、DBSに報告書を提出することになっています。この二審が最終審で、DSBはその結果を採択し、加盟国はそれに沿って必要な措置を採る事が求められます(最近の数年の傾向では、パネルが設置されてからパネル又は上級委員会報告が採択される迄、平均19か月かかっています)。GATT時代に持ち込まれた紛争件数は年平均で6-7件でしたが、WTOでは25件程度まで増えてきています。

 日本が関係した例では、2002年の米国による鉄鋼輸入セーフガード措置や、2012年の中国によるレア・メタル輸出制限措置に対する提訴があります。いずれも上級委員会審理まで行きましたが、結果的には日本の申し立てが認められました。

 しかし、このWTOの紛争処理機能についても問題がない訳ではありません。まず、発足当初より、提訴された国などが紛争処理機関の決定に従わない、即ち不履行の問題が散見されました。こうした背景には、WTO自身が加盟国に義務を順守させる強制力を持っていないことや、そもそも当事国にとって政治的に大きな問題となり得る案件については、当事国政府自身にとっても対応が難しいという事があります。それでも、不履行案件の割合はそれ程多い訳ではなく、貿易の自由化という大きな目的に照らして加盟国が概ねWTOの決定を尊重してきたことから、機能を保ってきたといえます。

 また、最近、日本はこの紛争処理機能の改革を提案しています。具体的には上級委員会について、①審議に時間がかかり過ぎることがある、②判断が本来の紛争処理の目的に資さないことがある、③審議の過程において当事国の意見を聴取する機会を設けるべきである―――といった点の改革を求めています。

 背景には、韓国が東日本大震災に関連して行っている日本産水産物に対する輸入制限の問題があります。日本の提訴に基づきパネルでは「韓国によるWTO協定違反、是正措置が必要」という報告を行ったのに対し、韓国の上訴により設けられた上級委員会では、パネルの決定を一部覆して是正措置の必要性に繋がらない報告を行いました。これが実質最終審であるために、日本の訴えが実質却下されたに等しい結果となってしまいました。より丁寧で細やかな審議を求める日本の改革案に強い反対はないかもしれませんが、現下のWTOを巡る情勢の下では、コンセンサスを得るのは簡単ではないと思われます。

 深刻なのは、米国による上級委員会委員選任拒否の問題です。これは、米国が上級員会の権限について異を唱え、過去3年間、上級委員会の委員選任に関わるコンセンサス合意を拒否しているというものです。このため、定員7名の上級委員会委員の内、既に4名が欠員となってしまっており、委員3名で構成する委員会の組成がぎりぎりという状態になってしまっています。

 上級委員会が組成できずにWTOの紛争処理が機能不全に陥った場合でも、アメリカのような大国であれば独自に報復措置を執るなど、他の手段により相手国に対抗することも可能ですが、小国の場合はそういう手段が取り得ないことから不利になってしまいます。このため、WTOが意のままにならないことに対するアメリカのゴリ押しという見方もあります。いずれにせよ、これまで機能してきたWTOの紛争処理機能を窮地に陥れる可能性があり、今後重要問題として注目を集めることになるでしょう。

分野: ファイナンシャルマネジメント |スピーカー: 平松拓

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