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内部留保と経営(1)

平松拓 企業財務管理、国際金融

19/11/27

ここのところ、日本企業の内部留保が注目されています。それも、「内部留保が大きいのは現金を内部にため込んで、日本経済の成長に生かされていない」というネガティブな発想からのようで、評判は良くありません。政治の場でも、「内部留保に課税すべきだ」といった議論すら出てきています。一体、内部留保とはどういうもので、こうして批判される程有害なものなのでしょうか。今回と次回の2回で、この内部留保について考えてみましょう。

ここ数年の好調な企業業績の結果、企業の内部留保に回る金額は全体として増加しています。法人企業統計によると、日本企業の当期純利益は過去10年間、連続して前年度を上回り、2018年度には62兆円となりました。この中から株主に支払われる配当金も年々増えて2018年度には26兆円となりましたが、その差額の36兆円が企業の内部留保に回ったことになります、

この内部留保に対して、「企業は現金を内部に溜め込んでいる」とか、「成長のための投資や、消費に繋がる賃上げにお金を使わずに溜め込んでいる」という批判がなされ、「この内部留保を吐き出させれば日本経済の活性化に繋がる」という話になって、「内部留保に課税すべきだ」という話にまで繋がっているようです。しかし、内部留保に対するこうした批判は当たっているのでしょうか。

内部留保とは、言葉そのままに「内部に留保された利益」に他なりませんが、利益から社外流出分を差し引いた残りの蓄積を意味します。もう少し具体的に言うと、企業の事業活動や投資活動の成果として得られる利益から、銀行などへの利息の支払い、税金の支払などを行った結果が当期純利益で、そこから株主への配当金支払いを行った残りが、社内に残る「留保利益」ですが、内部留保はその累積のことです。つまり、企業が利益を上げる限り、内部留保は増え続けるので、「内部留保が大きいのは怪しからん」とういうのは、「利益を上げるな」、或いは「利益以上の配当を支払え」と言っていることに等しいことになります。

また、企業がどれだけ内部留保を抱えているか知るために、企業の決算書(財務諸表)を見ても、内部留保という項目は見当たりません。基本的には「利益剰余金」という勘定項目がそれに最も近いことから、内部留保が積み上がった企業というのは、概ね、利益剰余金残高が大きい企業ということが言えます。

それでは、利益剰余金残高の大きな企業は、現金を溜め込んだ企業と言えるのでしょうか。答えは、ノーです。なぜなら、利益剰余金のように貸借対照表の右側に位置する項目は、同じく左側に記載されている企業が保有する各種資産が、全体としてどのように調達した資金で賄われているかを示しています。資産側の「現預金」の項目の残高が大きい企業は現金を溜め込んだ企業に他なりませんが、そうした企業が必ずしも利益剰余金の残高が大きいとは限りませんし、逆に利益剰余金が大きかったとしても、現預金を必要最低限しか保有していない企業はいくらでもあります。

もし、企業が現金化された利益を全て現金のまま社内に抱え続ければ、現預金と利益剰余金の双方が同時に積み上がって、内部留保が大きく且つカネ余りの企業ということになり得ます。しかし実際は、利益が上がっても期末時点ではまだ現金化されていない場合が多いですし、逆に期末時点迄に、既に別の目的で現預金から支出してしまっているかもしれません。つまり、「内部留保が大きいのはカネ余りの企業」というのは、利益と現金の流れを取違えた議論です。

次に、内部留保が大きい企業は、成長に繋がる投資も行わず、消費の活性化に繋がる賃上げも行っていないと言えるか、という点ですが、それもノーです。再び貸借対照表で考えると、企業が投資を行う場合には大きく二通りあります。一つは手持ちの現預金を使う場合で、その場合は、資産項目の間の振り替わり(現預金から固定資産等)で、右側は変化しません。もう一つは、新たに調達された資金を原資に投資する場合ですが、この場合、固定資産等が増える分左側の資産合計も増えます。そしてそれを賄うために右側も増える必要がありますが、もし、新たに留保された利益、即ち利益剰余金の増加がその一役を担っていれば、内部留保によって投資が支えられていることになります。

一方、賃上げを行えば費用が増えるので、直接的には利益の減少要因で、配当が変わらなければ、内部留保の増加は抑えられます。しかし、賃上げしながらも、戦略的に優れた経営を行って売上や利益を増やし内部留保を増やしている企業も少なくありません。内部留保を増やさないように賃上げしろという議論は、逆に成長のための投資を抑制することになりかねません。

要すれば、企業が成長のために資源や資金を有効に活用できているかを見極めるためには、「内部留保」といった概念で単純に一括りにするのではなく、より詳細に、個々の企業のパフォーマンスを見極める必要があると言えます。

分野: ファイナンシャルマネジメント |スピーカー: 平松拓

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