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ドイツ経済の不振

平松拓 企業財務管理、国際金融

19/10/21

ヨーロッパと言えば、最近は専ら英国のEU離脱問題が脚光を浴びていますが、残る側のEUの国々でも色々話題が持ち上がっています。例えばドイツです。ドイツと言えば、安倍首相を上回る長期政権を誇るメルケル首相の治世の下で、これまで政治、経済ともに安定していました。しかし、今そのドイツの経済が変調をきたしています。今回はそのドイツ経済についてお話しします。

EUの中では経済の優等生というイメージが定着しているドイツですが、ずっと経済が好調だった訳ではありません。1989年の東西ドイツの統合によって統合ドイツは旧東ドイツの開発という重荷を背負う結果となり、また、旧両国経済を収斂させるために、それまで進めてきた構造改革を中断せざるを得ませんでした。その結果、ユーロ導入後の2000年代前半には経済が低迷し、二桁の失業率を抱えて、「EUの問題児」と呼ばれた時期がありました。

しかしその後、社会民主党のシュレーダー政権による構造改革が奏功し、その後を継いだキリスト教民主同盟のメルケル政権の下で、ドイツの経済は完全に立ち直りました。リーマンショック後の2009年こそ一時的にGDP成長率が▲5.4%へと大きく沈みましたが立ち直りは素早く、その後相前後して発生したギリシャ危機や欧州金融危機の中でも、ドイツがEUの経済を牽引する姿が鮮明でした。

逆にドイツ経済が強すぎるが故に、他のユーロ諸国が迷惑を蒙ってきた面もあります。というのは、EUではその内のドイツを含む19か国が通貨ユーロを共有していますが、単一通貨の下では金融政策は一通りしかあり得ません。その結果、不振に喘ぐその他の国の経済を刺激するような金融政策を採ろうとしても、常に好調なドイツ経済の存在が制約となってきたのです。

それでも、経済が好調なドイツが積極的な財政政策を取ってくれれば、他のユーロ諸国にも恩恵が及びますが、過去において巨額の政府債務からハイパーインフレに襲われた経験を持つドイツは、頑なまでに均衡財政を堅持してきました。その結果ドイツは、財政赤字及び政府債務についてのユーロ財政基準を遵守しながら失業率も3%台という、健康優良児の経済を維持してきました。

そのドイツ経済がここへ来て変調をきたしている訳です。昨年のGDP成長率は前年より1%低下して1.5%となりました。それでも、2018年の年間の数字としては消費、政府支出、設備投資共に良好で、成長率低下の原因は輸出を上回る大幅な輸入の伸びとされ、国内経済の不振を示すものではありませんでした。しかしながら、年後半の減速は明らかで、2019年に入ると、第一四半期こそGDP成長率は年率0.4%とプラスを維持しましたが、第二四半期は▲0.1%のマイナスに落ち込みました。

この間、特に深刻だったのが企業の活動状況で、ドイツの鉱工業生産は3月以降、7月までの4ヶ月間で3分の2の水準に落ち込んでおり、このままでは第三四半期もマイナスの成長となる可能性が高いとされています。現にドイツ連邦銀行も第三四半期のGDPが低調との見方を示し、既にドイツ経済は軽度のリセッション入りした可能性があると警告しています。

主因は輸出製造業の不振であることは明らかです。特に自動車産業は過去1年間で17%も輸出が減少しました。背景としては、中国の新車需要の減少(これは米国、日本のメーカーも同様の影響を受けていますが)に加えて、EU離脱問題で経済が低迷する英国向けの不振、さらに燃費不正問題が尾を引いて内外でディーゼル車が不人気な他、不祥事によるブランドの毀損が影響していることなどが考えられます。

それにしても、ドイツの経済と企業活動の急速な落ち込みようは、同じような産業構造を持ち、経済成長率が1%程度と低迷しながらもプラスを維持して来ている日本の情況とは異なります。この違いを読み解く一つの鍵は、日本とドイツの貿易依存度の違いにあります。日本も嘗ては貿易立国ということが叫ばれた時期がありましたが、島国の日本と三方が他国と陸続きのドイツとでは経済の地理的な条件が異なっています。経済の貿易依存度(モノの貿易(輸出と輸入)のGDPに対する比率)でみると、ドイツは7割近くに達しますが、日本は3割未満です。その分、ドイツは貿易を通じて海外経済の減速の影響を受けやすいのです。

高い貿易依存度は、逆にドイツの経済の低迷が他国へも波及し易いことを意味しますので、ドイツ経済の不振が立ち直りを見せ始めたEU経済を再び停滞へと導きかねないことが懸念されます。ただ一方で、既に述べたように、ユーロ圏の中銀であるECB(欧州中央銀行)は、これ迄金融緩和政策を採用する際に、常にドイツの経済が強すぎることが制約となっていましたが、ドイツが景気後退に陥ればそうした制約が消えてECBの政策選択の余地が増えること、さらに、ドイツが自ら景気梃入れのために財政政策を発動するようなことがあれば、その恩恵は周辺国にも及ぶことが考えられます。

つまり、このドイツ経済の変調は欧州経済にとって一見深刻な材料に見えながら、誕生して20周年を迎えた共通通貨ユーロを共有する欧州諸国に対する、ドイツからのギフトということになる可能性もあるわけです。

分野: ファイナンシャルマネジメント |スピーカー: 平松拓

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