QTnet モーニングビジネススクール

QTnet
モーニングビジネススクールWeb版

FM FUKUOKAで放送中「QTnet モーニングビジネススクール」オンエア内容をWeb版でご覧いただけます。
ポッドキャスティングやブログで毎日のオンエア内容をチェック!

PODCASTING RSSで登録 PODCASTING iTunesで登録

タグ

災害に備える!~近年の防災に関するトピックス~その4

平野琢 企業倫理、リスクマネジメント

19/10/17

今回は今行われている防災訓練の内容について、リスクマネジメントの観点からその課題を考えていきたいと思います。防災訓練というものをリスクマネジメントの観点から見ると、クライシストレーニングというものの1つに位置付ける事が出来ます。リスクマネジメントにおいてクライシストレーニングに要求されている視点で防災訓練を考えると、今の防災訓練に足りないものが見えてくると言えます。

そもそもクライシストレーニングとは簡単にいえば、危機的な状況が実際に発生した際に被害をなるべく抑えたり、二次的な被害を回避するための訓練という事が出来ます。防災訓練以外でいうならば、企業で行われている企業不祥事の際の対応訓練や、工場等において事故が発生した際の対応訓練などがこれに当たります。

クライシストレーニングとして今の防災訓練を見た時に、防災訓練の内容について、やはり一つの課題が指摘できると私は考えます。今の防災訓練の内容を想像していただくと分かるのですが、災害等が起きた時に予め決められた避難経路に沿って避難ができるか、マニュアルに定められた通りの行動が出来るかなどを確認するものが大半を占めます。確かに災害心理学においては、緊急事態にはやはり人々の思考力というものが落ちるとともに、状況の判断能力が落ちる事が実証されています。従って思考力や判断力が落ちたこのような状態でも、予め定められた行動がとれるように確認しながら訓練する事には確かに大きな意味があると言えます。

ただし、このような確認型の訓練がクライシストレーニングの観点から十分であるかといえばそうではありません。近年の災害や大規模な産業事故を見てみると、予め定めた避難経路が寸断されていたり、そもそも災害時の緊急マニュアルに定められていた行動を取るための用具やインフラが無かったりする事例というのは非常に多く報告されています。このような背景から、近年のクライシストレーニングにおいては、マニュアルなどで予め設定した想定を超えた状況においても被害を最小限に抑えられる能力を育む事が訓練に求められています。そしてそれは近年のクライシストレーニングの主流となっているのです。これを元に考えてみると、防災訓練においてもこのような想定外の過酷な環境下でも最善策を作り上げていく、いわば思考型の防災訓練が内容として求められていると私は考えています。

実際に、2011年3月に発生した東日本大震災では、予め定められた避難ルートが土砂崩れや様々な要因によって寸断されてしまったり、訓練したことがない例えば帰宅の途中で津波にあったりするなど、事前訓練では想定し得なかった数多くの事態が発生した事が報告されています。またこのような事態において、生命の安全に何が関わったかというと、そのような過酷な状況のなかで自分自身で安全な行動を考えて実践したかが、非常に大きな影響を与えたと指摘されています。ペットボトルなど身近な物を即興で防災用具に使用した事が、減災や生存に繋がったという事例も報告されています。これらの事実を考慮すれば、思考型の防災訓練は南海トラフ地震など将来的に発生が予測されている大規模な激甚災害に備えるにあたって、早急に取り組むべき防災訓練であると考えられます。

では防災訓練を思考型にするにはどのような方法があるのでしょうか。大きく分けてまず二つの方法が考えられると思います。まず一つめは今の災害時のマニュアルが想定した事態を超える状況を考えて、そのような過酷な状況において身を守るにはどうすればよいかを皆で議論してみるという訓練の方法が考えられます。これは小学校などで行われている事例ですが、学校において決められた避難経路の途中で例えば火事が起きたらどう行動するか、先生がいないような状況で被災した場合、どうやって避難する事が安全なのかをクラス全体で話し合って考えてみる、というのは一つの方法ではないかと考えられます。また、より実践的なものにするとするならば、確認型の防災訓練の中に意図的にマニュアルの内容では対応出来ない事態を作り込んで、訓練の参加者にその場で出来る対応を考えて実行してもらうという訓練も考えられます。防災訓練においてわざと必要な備品を不足させたり隠してしまったり、重要な人物を不在にさせたりしながら防災訓練を行って、参加者にその場で出来る対応を考えながら最善策を実践させたりするという方法が考えられます。やはり想定外の事象の方が犠牲者を生む事例の方が多いです。従ってその時に考えたり最善策を思いつく訓練を事前に行う事は非常に重要だと思われます。

今日のまとめ:
現在行われている防災訓練の多くは予め決められた行動が出来るかどうかを確認する、いわば確認型の防災訓練だと言えます。しかし実際の災害では予め決まられた対応では対処できない状況が多く発生しており、その際には安全な行動をどれだけ自分自身で想像し、考え、実践できるかが重要になってきます。その際の対応力を磨くための思考型の防災訓練についても取り組んでみてはいかがでしょうか。

分野: 企業倫理 経営リスクマネジメント |スピーカー: 平野琢

トップページに戻る

  • RADIKO.JP