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運転資本について

平松拓 企業財務管理、国際金融

19/08/15

前回は、在庫についてお話ししましたが、今回は話を少し広げて「運転資本」について考えてみます。この運転資本、企業の経営管理や財務管理の中ではどちらかと言えば地味な印象がありますが、実は日本の企業倒産の多くに関わっていて非常に重要です。

企業が事業を行う場合、運転資金とか運転資本とか呼ばれる資金が必要となります。この2つは似た概念ですが、「運転資金」は主に銀行で使われるのに対し、ここで採り上げる「運転資本」は一般に会計用語として用いられています。その意味するところは、詳しく言うと、「現預金を除く流動資産(1年以内に資金化が期待される資産)の内、利子の発生しない流動負債(1年以内に決済されることが期待される負債)では賄い切れない分を賄うための資金」のことです。実務的には、売掛金(及び受取手形)と棚卸資産(在庫)の合計から買掛金(支払手形)を差し引いたものと考えておけば良いのが普通ですが、企業が事業活動を行うに当たっては、設備を購入するための資金や賃金支払いのための資金に加え、この「運転資本」に見合う資金が必要となります。

即ち、企業は原材料や商品の仕入れのために現金が必要となりますが、その現金が返って来るのは販売によってであり、少なくとも、この間資金需要が発生します。少なくともと言ったのは、現金販売ばかりでなくて信用販売が行われることも多いからで、この場合、販売によって生じるのは売掛債権で、現金はさらにその売掛債権の決済まで待たねばなりません。一方で、仕入れにおいても現金取引ばかりでなく信用取引も行われるので、その場合は買掛債権の決済までは現金の支払いが猶予されることになります。つまり、仕入と販売の間である在庫期間に売掛期間を加えた期間から、買掛期間を引いた期間発生する現金需要が運転資本ということになる訳です。

では、この運転資本がどのように企業の倒産と関係してくるかと言えば、日本で倒産する企業は必ずしも赤字企業ばかりではなくて、倒産する企業の半分程度は黒字企業と言われています。何故、黒字なのに企業が倒産をするのかといえば、企業が倒産するのは、直接的には、赤字を出したり、その赤字が積み上がり払い込んだ資本金を食いつぶす(債務超過になった)からではなく、資金が続かなくなるからです。黒字企業が倒産する場合には、特にこの運転資本が関わっているケースが多くなります。

というのも、運転資本の中身を構成する売掛債権や棚卸資産、買掛債務は、企業のビジネスの内容が変わらなければ、いずれも売上の増減に連動して増加したり減少します。特に売掛期間や在庫の滞留期間が長い企業の場合、運転資本の金額は大きくなりますが、こうした企業で売上高が急増すると、運転資本の増加額も大きくなり、これは売上の伸びに伴い増える利益の範囲を大きく超えることになります。その結果、急速に資金が不足しますが、それでも、先行き見通しが明るければ、銀行が追加融資に応じてくれるでしょう。しかし、そこで売れ行きが鈍って在庫の増加に拍車が掛かったり、取引先の資金繰り悪化などで売掛金の決済が長期化するといったことが重なると、資金調達が困難になり、一気に「倒産」に繋がり得ます。

こうした倒産のリスクを別としても、運転資本の管理は重要です。何故ならば、在庫の所で説明したように、運転資本には調達コストがかかる一方、運転資本で賄われるネットの資産は収益を生まない。つまり、運転資本の直接の経済性はマイナスだからです。

運転資本の管理としては、第一に、運転資本の発生を抑制することが考えられ、そのためには、信用販売から現金販売に変更する、売掛債権の期間を短くする、或いは、在庫をなるべく持たないようにするといったことが考えられます。さらに、現金仕入れから信用仕入への条件変更や、同じ信用仕入れでも買掛期間を長くするよう交渉することも考えられます。しかしこの場合、在庫について見たのと同様に、メリットばかりでなくてデメリットもあることに注意が必要で、そのバランスを取る必要があります。例えば、現金販売にして売掛金を圧縮すれば、資金負担が軽減され、売掛金の管理費用や貸し倒れ損失も削減できるでしょうが、大事な顧客に逃げられてしまうリスクがあります。また、信用仕入れへ移行したり買掛期間を長期化すれば、資金に余裕は出ますが、その一方で買掛金の管理費用が発生したり、取引先(納入業者)に取引を切られるリスクがあります。

第二に、顧客や取引先との交渉では運転資本の抑制が難しい場合、借入などの形で外部から資金調達を行って賄うことになります。しかし、ある程度それが可能であったとしても、有利子負債が増えて将来の元利金の支払い負担が増えると倒産確率が高まるため、借り入れ条件が厳しくなり得ますし、金融機関が融資に応じられる金額には限度があります。こうした場合に追加的に資金調達を行う方法として、売掛金や在庫を担保として金融機関から融資を受ける方法も有ります。これを流動資産担保金融などと呼んでいます。

第三の管理としては、上記二つでは解決がつかないなどの場合に、売掛期間の長い顧客との取引や、在庫負担の重いビジネスを切る、即ち選択と集中を行うことで、売上増の抑制も含めて、運転資本を軽減するという方法を採ることもあり得ます。

このように運転資本の管理は、単に資金繰りや購買先や顧客との間の交渉という側面ばかりでなく、資金調達や事業の選択と集中といった戦略性を伴う対応も含む、重要度の高い経営活動という一面を持っています。

まとめ:運転資本管理は企業の成長を支える基本的な要素としての重要性を持つとともに、単に購買先や顧客との交渉によるゼロサム・ゲームという側面ばかりでなく、資金調達や事業の選択と集中といった、戦略性を伴う対応も含む、重要度の高い経営活動と言えます。

分野: ファイナンシャルマネジメント |スピーカー: 平松拓

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