岩崎勇 日本の会計、国際会計、税務会計、監査論、コーポレート・ガバナンス、西洋・東洋思想と倫理、経営哲学
19/08/08
1 概念フレームワークの意義
会計上の「概念フレームワーク」(CF)とは、財務諸表の作成と表示や財務報告の基礎をなす体系的な諸概念について記述したものである。国際会計基準審議会(IASB)の概念フレームワークは、IASBが理想とする会計の体系的な諸概念を示し、その主たる目的は、IASBが首尾一貫した個別の会計基準を開発する場合の基本的な諸概念や考え方を示すものである。それゆえ、これは、IASBの公表する会計基準であるすべての国際財務報告基準(IFRS)の基礎となるものである。
このように、概念フレームワークは、図1のように、首尾一貫性のある個別の会計基準を設定するための体系的な諸概念(「メタ基準」)であり、しばしば「会計上の憲法」と呼ばれることもある。
図1 概念フレームワークと会計基準との関係
このように、概念フレームワークは、一般に資金の調達や運用を目的とする証券・金融市場に参加する市場参加者(特に投資者)を前提として、財務会計に関する目的や基礎概念を予め設定し、それに基づいて規範的なアプローチである演繹法よって、首尾一貫性のある会計基準を設定するための基礎的な諸概念の体系を明文化したものである。
そして、現在において首尾一貫した個別の会計基準を設定するためのメタ基準として概念フレームワークは一層重要性を帯びてきている。なぜならば、どのような概念フレームワークが作成されるかで、どのような会計基準が設定され、それゆえ、それに基づいた実務が行われるかを間接的に決定するからである。同時に、後述の「概念フレームワークの目的」の所で説明するように、一定の状況の下において、会計上の判断においても概念フレームワークが参照されることとなるからである。
そして、概念フレームワークが存在すれば、会計基準を設定する場合、そのメンバーが変更になっても論理的に首尾一貫したものが設定可能となり、また政治的な干渉も避けることができるようになる、ということが期待されている。
2 概念フレームワークと個別会計基準との関係
前述のように、概念フレームワークから首尾一貫性のある個別の会計基準を設定するのが概念フレームワークの本来の機能であり、この「概念フレームワーク→会計基準」という関係を「メタ基準性」と呼ぶ。ところが、現実には、例えば、金融商品会計基準のように、個別の会計基準が先に設定され、これに合わせる形で概念フレームワークが改訂される場合があり、この「会計基準→概念フレームワーク」という関係を「逆メタ基準性」と呼ぶことができる。
図2 概念フレームワークと個別会計基準との関係
3 会計基準の設定アプローチ
この場合、会計基準の設定アプローチには、表1のように、概念フレームワークを持たずに、その時々の必要性に応じて個別の会計基準を設定していくアプローチ(「ピースミール・アプローチ:PA」)と概念フレームワークを持ち、その概念フレームワークを基礎として首尾一貫性のある個別の会計基準を設定していくアプローチ(「理論的アプローチ:TA」)とがある。
表1 会計基準の設定アプローチ
歴史的には、図3のように、ピースミール・アプローチから理論的アプローチへと変遷してきている。それゆえ、今日においては、多くの国において概念フレームワークに基づく理論的アプローチが採用されている。
図3 会計基準の設定アプローチの流れ
4 概念フレームワークの必要性
次に、なぜ概念フレームワークが必要とされるのか、ないし概念フレームワークの存在意義は何かを明確にしていくこととする。というのは、この概念フレームワークの必要性ないし存在意義が、後述の「概念フレームワークの目的」についての重要な基礎を形成するからである。
概念フレームワークの必要性の内容は、図4のとおりである。
図4 概念フレームワークの必要性
概念フレームワークは、権威ある規範的なもので、首尾一貫した諸基準をもたらすことができ、かつ財務会計の性質、機能及び限界を規定する、相互に関連した目的と基本概念の脈絡ある体系である。そして、この概念フレームワークの必要性ないし存在意義を端的に表現すれば、概念フレームワークには、表2のように、一定の公的機関等によって、それに従うことが要請されるという「権威性」、IASBのような会計基準の設定機関が将来のIFRS等の会計基準の開発に際して、それに従うことが要請されるという「規範性」、理論的に首尾一貫した体系的な概念フレームワークに基づき首尾一貫したIFRS等の会計基準が導かれるという「首尾一貫性」及び財務会計の性質、機能及び限界を示す、相互に関連した目的と基本概念の脈絡ある体系であるという一種の「憲法性」が必要である。そして、これらの性質が、後述の概念フレームワークの目的に重要な影響を及ぼしている。
表2 概念フレームワークの必要性
5 むすび
概念フレームワークは個別会計基準を設定するためのメタ基準であり、かつわが国はIASBとコンバージェンスをしているので、わが国の現在の会計を理解するためには、IASBの概念フレームワークを理解する必要がある。
分野: コーポレートガバナンス 財務会計 |スピーカー: 岩崎勇