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ブックレビュー(9) 呉兢(守屋洋訳)『貞観政要』ちくま学芸文庫

永田晃也 技術経営、科学技術政策

19/08/19

呉兢(守屋洋訳)『貞観政要』ちくま学芸文庫
今回のまとめ: 中国唐代の第二代皇帝太宗とその臣下たちの問答を記録した本書には、トップの座にある者の条件などについて普遍的な考え方が示されています。


 今回は『貞観政要』(じょうがんせいよう)という本をご紹介します。これは中国唐代の第二代皇帝であり、死後に太宗(たいそう)と号されることになった李世民と、彼を支えた臣下たちの問答を編纂したものです。太宗は、626年に「玄武門の変」と呼ばれる政変を起こして、確執があった兄の太子を倒して皇帝の座に就きました。翌627年に元号が貞観と改元され、以後、649年までの23年の間、国内に「貞観の治」と呼ばれる安定した平和な時代が続くことになります。『貞観政要』は、太宗の没後4、50年頃に、呉兢(ごきょう)という歴史家によって編纂されたものとして伝えられています。
 この書物には、守屋洋(もりや ひろし)さんという中国文学者による翻訳があり、ちくま学芸文庫で読むことができます。訳者の守屋さんには『「貞観政要」のリーダー学』(プレジデント社)という著書もあります。訳書は原書の4分の1を訳出した抄訳ですが、随所に丁寧な注釈が加えられていて、大変読みやすい本になっています。
 訳者の解説によると、『貞観政要』という本には、中国はもとより日本においても帝王学の教科書として長く愛読されてきた歴史があり、例えば徳川家康や徳川幕府中興の祖と言われる吉宗などに親しまれているし、明治天皇など歴代の天皇もご進講を受けており、その数は記録に見えるだけでも10数人に上っているそうです。
 実際、この本には指導者の条件、人材登用のあり方など、およそトップの座にある者ならば必ず直面するような問題に対する向かい方が示されているので、我が国の経営者の中にも座右の書として挙げる方が少なくないようです。そのため、この放送でも本書を取り上げてみたいと思ったわけですが、内容を体系的に整理してお話する時間はありませんので、ここでは私が特に印象に残った部分を切り取ってご紹介します。

まず本書を読むと、臣下の諫言に耳を傾けることの重要性がたびたび論じられていることが注目されます。太宗が臣下の魏徴に「明君と暗君のちがいはどこにあるのか」と尋ねると、これに対して魏徴は「明君の明君たるゆえんは広く臣下の進言に耳を傾けることであります。また、暗君の暗君たるゆえんは、お気に入りの臣下のことばだけしか信じないことであります」と答えています。太宗もこれをよく弁えて、自分の下す詔勅に妥当適切を欠く点があれば遠慮なく意見を申し述べるように臣下に伝え、「わたしの叱責を恐れて、知っていながら口を閉ざす、かりそめにもそんなことは許されないものと心得よ」と述べています。そして実際に、娘の嫁入り仕度が贅沢すぎるといった一見小事に見えることでも、臣下の忠言に納得がいけば潔く聞き入れているのです。このケースでは、娘の母親である皇后も臣下の忠言を徳とし、「忠言こそは、国を保ち、家を保つ者にとって欠かせないものであります」と述べています。
おそらく、君主と臣下の間に、これと真逆の関係が成立している状況では、君主に利己的な言動をとらせる前に、臣下が君主の欲求を忖度し、その言動を代行するといった事態が生じます。臣下が君主をおそれるあまり、その言動が正される機会すら失われてしまうわけです。

 太宗は人材登用について、自分は遠い地方のことにまでは目が行き届かないからこそ、地方長官にとりわけ優れた人材を起用するのだと語っています。今日の大規模組織では、中央から遠い支社などの職位を軽視し、ともすると左遷先にするようなことが行われますが、こうした傾向は見直すべきでしょう。また、太宗は「どんな時代にも、人材はいると思う。ただ、われらの方がそれに気づかないだけのことではないか」とも語っています。
 自らの言動に対する太宗の厳しい姿勢も非常に印象的です。太宗は「言語は君子の枢機なり」、つまりこの上なく重要なものだと語っています。「君主たる者、臣下に語るとき、わずかな失言もあってはならない。たとい些細な失言でも、影響するところは大であって、庶民の失言とは同列に論じられない」というのです。私は政治家の耳を疑うような失言が報道される度に、1300年以上も前に編纂された書物の普遍性に、空恐ろしさすら感じるのです。

分野: イノベーションマネジメント |スピーカー: 永田晃也

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