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単純接触効果

三上聡美 産業組織心理学、社会心理学

19/01/07

今日は「単純接触効果」についてお話します。

「単純接触効果」を説明するために、私の最近の出来事について少しお話しします。実は、最近トイレのスリッパを新しくしました。それは茶色で革製のいたってシンプルなスリッパなのですが、なぜか私はそのスリッパに一目惚れをしてしまいました。ただ、値段が3,000円とトイレのスリッパにしては少し高い気がしたため、他のスリッパを探してみようと一旦諦めました。しかし、なぜかそのスリッパが忘れられず、もう1度お店に行ったのですが、そこでもやはり迷いが生じて諦めてしまいました。それでも忘れられず、3回目にしてやっとそのスリッパを買うことに決めました。この出来事を母親に電話で話したところ、そこまで悩んだスリッパを見てみたいと言うので、写真を撮って送りました。写真を見た母は、「このスリッパが3,000円するのは納得出来る。でも悩むほど魅力的なスリッパだとは思わない」と言いました。しかし、その数日後再び母から電話があり、「うちにもそのスリッパが欲しいから買ってきて欲しい」と言ってきたのです。

最初はそんなに悩むほど魅力的なスリッパではないと言っていたのに、欲しくなったわけです。母の特徴(性格)というのもありますが、なぜ母は心変わりをして「スリッパを欲しい」と言ってしまったのでしょう。実は、私の送ったスリッパの写真を何度も見ている内にそのスリッパに魅力を感じてきたらしいのです。実はこれが「単純接触効果」です。「単純接触効果」とは、特定の物事に繰り返し何度も接触するだけで、その物事への親しみが増して好きな気持ちが高まることを言います。つまり、接触すればするほど、その物がいいなとか好きだなと思うようになるということです。

「単純接触効果」は、ザイアンスという人が提唱しました。彼は、実験参加者に様々な人物の顔写真を繰り返し見せて、その後に写真の人物に対する好意度を評定してもらうという実験を行いました。その結果、提示した回数が多い写真の人物ほど好意度が増大したという結果になったのです。心理学では、人と親しくなりやすい要因の1つに「近接性」が説明されています。この近接性とは、近い距離にいる人と親しくなりやすいということなのですが、近い距離にいる人とは「単純接触効果」が起こりやすいとされています。

「単純接触効果」は、接触する回数を上げることがポイントになっています。つまり、1回の接触時間を長くするよりも、短い時間で何度も接触する方がいいそうです。例えば、CMは「単純接触効果」が起こりやすいと言われていますが、CMは短時間で繰り返し流れていきます。何度も見たり聞いたりしていると、そのCMの商品を買ってみようという気持ちにさせられてしまうわけです。人間関係においても、会う機会が多い人には興味が出てきたり、仲良くなってきたり親しみが出てくるのではないでしょうか。電話やメールも簡単な質問事項や連絡事項のやり取りを繰り返すことで、相手への好意度が高くなると言われています。
また、この「単純接触効果」は、対象の物事を見ているけれどもそれに気付かない条件でも起きるとされています。これについては、クンスト・ウィルソンとザイアンスが次のような実験を行いました。彼らは、2つの八角形の図形を用意して、一方の八角形の図形を1ミリ秒という観察者が気付かないレベルのわずかな時間だけ提示した後に、提示した八角形と提示していない八角形のうち、どちらが好きかを選ばせました。その時、どちらを以前見たと思うかを回答させてみたところ、正答率は50%程度でしたが、図形に対する好意度については、提示された八角形の図形を選ぶ確率が、提示されなかった方を選ぶよりも高いという結果になりました。図形を提示されたことには気付いていないにもかかわらず、2つの図形に対する好意度が違うという実験結果となったのです。

「気付かないことに気付いてみる」という体験は日常生活でほとんどないので、この実験を聞いてもなかなかピンとこないかもしれません。しかし、みなさんこういう経験はないでしょうか。初めて人に会った時、その人に対して初対面なのに「初めて会った気がしないな」とか、「どこかで会ったことがあるような気がする」と思ったことはないですか。もしかしたらその人と実は以前に会ったことがあるのかもしれません。自分では意識していない所でその人とすれ違っていたり、自分の視界に入るところにその人がいたりしたのかもしれません。どこかで会ったことがある気がするけど、どこで会ったかは思い出せないとか、でもその人のことを知っていて、誰だろう誰だろうと思っていたら、よく行くお店の店員さんだったという経験もその1つになります。よく行くお店の店員さんは意識的に会っているわけではないので、普段は気付いていないことが多いですが、接触しているということです。

ただし、「単純接触効果」は、好き嫌いが決定される前の状況、つまり、人と出会った初期の段階でないと効果はありません。1度嫌悪感を抱かれてしまうと、どんなに接触頻度を増やして好かれようとしても逆効果になるだけなので、そこは注意が必要になります。つまり、好きか嫌いかを判断する前の段階で接触効果を図る、「単純接触効果を図る」ということですね。

では、今日のまとめです。
特定の物事に繰り返し何度も接触するだけで、その物事への親しみが増して好きな気持ちが高まることを「単純接触効果」と言います。関係が始まる最初の段階に多く接触することで好意度も増していきます。

分野: 社会心理学・組織心理学 |スピーカー: 三上聡美

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