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差別化戦略(2):提案価値の差別化

目代武史 企業戦略、生産管理

18/10/10

 今日も差別化戦略についてお話したいと思います。差別化戦略とは事業活動において他社とは異なる価値をお客さんに訴えて競争上の優位を追求する戦略のことです。この戦略のポイントは、まさに他社と異なる価値をいかに生み出すかということにあります。今日は顧客から見た時に企業が打ち出す差別化がどう受け止められるのか、その反応のパターンについてお話してみたいと思います。

 商品をお客さんに選んでもらうために他所に無い機能や質、デザインなど様々な独自性を出していくことが必要です。例えばデジタルカメラですが、色々選ぶ基準はあります。大きさであったり厚みや重さ、持ちやすさだったり、バッテリーの持ち時間や連写機能、撮影モードの多彩さ、価格帯などが考えられます。各社とも他社との違いを打ち出すべく商品開発に取り組んでいます。そこで他社製品との違いをもたらす要因をここでは差別化要因と呼んでみたいと思います。
 差別化戦略では差別化要因として何を選ぶかがとても重要になってきます。例えば、デジカメをより軽く、より薄く、よりバッテリーを長持ちさせることが出来ればお客さんは多分喜んでくれると思います。画素数を高めたり、手ぶれ防止機能を高めたり、人の顔を自動検出する機能を盛り込んだりするのも同じです。ただ問題なのは、お客さんにとって意味のある差別化要因を選べるかどうかということです。

 そこで2つの軸からなるグラフを想像してみてください。まず横軸に、差別化要因として選んだある商品特性をとります。例えば、バッテリーの駆動時間の長さや、画素数、デジカメの薄さや軽さといった要因です。右に行くほど差別化要因が向上するということを表わします。次に縦軸ですが、顧客の心理的な満足度をとります。上に行くほど感動したり喜びを感じたりします。下に行くほど逆にイライラしたり怒りを感じたりします。そうするとこの縦軸と横軸は十字架のように垂直に交わっているので、グラフの左下は、差別化要因のレベルも顧客満足のレベルも両方低く、右上の方は差別化要因も顧客満足度も両方高いことを表わします。通常我々は、商品のある特性を改善していくとお客さんもそれにつれて満足してくれると半ば暗黙的に想像しています。バッテリーの駆動時間が長くなったり、画質が上がったりするとお客さんは喜んでくれると考えます。しかし、このような軌跡を描くような差別化要因はあまり多くありません。数少ない例で言うと、車の燃費はそうかもしれません。燃費が良いほどみんな喜んでくださる。
 先程のデジカメの例で言うと、画素数はどうでしょうか。画素数が400万画素を超えると一般の人には画質の違いは分からなくなるといわれています。現在では、1,000万画素や2,000万画素は当たり前です。つまり、画素数どんどん上がっていっても顧客の満足度にはあまり関係がないということになります。差別化要因と顧客満足の関係は、グラフの左下の辺りから始まって商品特性が良くなるほどお客さんの満足度は上がっていきますが、多くの場合、途中でその上がり方が頭打ちになります。その差別化要因の特性が悪ければ(低ければ)、顧客はイライラを感じたり怒りをおぼえたりします。その特性が改善していくとイライラや怒りは減っていき、終いには感じなくなっていきます。何故かと言うとそれは当たり前の品質あるいは性能だからです。このようなものを「当たり前要因」と呼びます。当たり前要因の性能は、その商品を買わない理由にはなりますが、買う理由にはなりません。
 対照的なのが「感動要因」と言われるものです。これは無いなら無いで困りません。しかし上手く作りこまれていくと、お客さんに驚きや喜びを生む要因になり得るものです。例えば、アップルがiPhoneを出した当初、マルチタッチ機能や加速度センサーを備えたヒューマンマシンインターフェイスに皆さん驚かれたと思います。ページをめくるように画面をフリックしたり、2本の指でつまんで画像を拡大したり縮小したり、スマホを傾けると画面の上下も連動して入れ替わったりという機能がありました。通話したりメールを打ったりするだけであればガラケーの機械式のボタンでも十分ですし、それで以前は困りませんでした。しかし、iPhoneは新しいパネル操作の在り方を提案することで、驚きや新しい操作感を打ち出しましたのです。
 当たり前要因と感動要因には、相対的な側面もあります。かつてデジカメでは良い画像であるとことは、感動要因でした。ところが、今や高画質であるというのは当たり前要因になっているので、画質競争ではもう差別化になりません。つまり適切な差別化要因を選び取るためにはこのような感動要因から当たり前要因への変化を敏感に見極めることが重要になってきます。

 今日のまとめです。他社製品との違いをもたらす要因を差別化要因と呼びます。差別化要因と顧客満足の関係は必ずしも直線的ではありません。あって当たり前だけれども、どれだけ改善してもお客さんの満足にはつながりにくい当たり前要因と、なくても困らないけれども上手く作りこめばお客さんの喜びや驚きに繋がる感動要因というものがあります。当たり前要因をしっかり満たして買わない理由を消しつつ、感動要因を上手に織り込むことでお客さんの選ばれる要素をどれだけ盛り込めるかが鍵になってきます。

分野: 生産管理 |スピーカー: 目代武史

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