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キーワード(56) デザイン・ドリブン・イノベーション

永田晃也 技術経営、科学技術政策

18/08/24

今回のまとめ: 「デザイン・ドリブン・イノベーション」とは、購入動機に結び付くような新しい意味を製品やサービスに与えたイノベーションです。


 今回は、「デザイン・ドリブン・イノベーション」というキーワードを取り上げます。この語は、ミラノ工科大学のロベルト・ベルガンティという教授によって提唱されたものです。2009年に公刊されたベルガンティの著書は、我が国でも翻訳されています。その著書の中でベルガンティは、デザイン・ドリブン・イノベーションを、「消費者が購入したいという揺るぎない動機を抱くような、全く新しい意味を持つ製品やサービス」と定義しています。デザインの本質を、意味を作り出す行為と捉えている点に、この定義の独自性が認められます。
ベルガンティは、この概念を展開する上で、スイスの腕時計メーカーが生み出した「スウォッチ」、アップル社の「iPod」、任天堂のゲーム機「Wii」といった事例を取り上げています。
 例えば、スウォッチという腕時計は、クオーツ・ムーブメントとデジタル・ディスプレイの登場によって1980年代の初頭にスイスの腕時計産業が消滅の危機に瀕する中で、あるメーカーによって導入された安価なプラスチック製の腕時計でしたが、それは従来贅沢品であった時計に対して、ネクタイのように、いくつも所有して着けかえる「ファッション・アクセサリー」としての意味を与えたのだと、ベルガンティは説明しています。
また、iPodは、従来のポータブル音楽プレーヤーに対して、個人的な音楽プロデュースを可能にするシステムとしての新しい意味を与えたイノベーションとされ、Wiiは、専ら若年者が受動的にバーチャルな世界を楽しむためにあった従来のゲーム機に、誰もが積極的に身体を使って楽しめるという意味を与えたイノベーションとして解釈されています。

 さて、ベルガンティが取り上げた3つの事例は、いずれも技術の急進的な改善とデザインの相互作用によって展開されたものと位置づけられています。実際、そのような相互作用がイノベーションを促進する傾向があることは、私自身が関与した研究プロジェクトの結果にも見出されました。
前にもご紹介したデータですが、私が文部科学省科学技術・学術政策研究所で指揮をとって実施した平成20年度「民間企業の研究活動に関する調査」では、デザイン活動を多角的に定義した上で、研究開発を実施している企業におけるデザイン活動の実態を把握し、さらに技術とデザインの関係を分析しています。
 この調査で、自社の製品・サービスにおいてデザインと技術的な機能・性能の間にどのような関係があるかを質問したところ、約3割の企業がトレードオフの関係にあると回答し、約7割の企業は相互補完的であると回答しました。次に、両者の間にトレードオフの関係があると回答した企業に対して、自社の研究開発プロジェクトではどちらが優先される傾向にあるかを質問したところ、88%の企業は技術的な機能・性能が優先されるとし、デザインが優先されると回答した企業は12%に止まりました。
 しかし、興味深いことに、技術的イノベーションの1つであるプロダクト・イノベーションの実施状況を比較したところ、技術とデザインの間にトレードオフの関係が存在する場合、デザインを優先している企業群の方が、技術を優先している企業群よりも、イノベーションの実施割合が有意に高かったのです。この調査結果は、デザインを優先する研究開発プロジェクトでは、独創的なデザインの製品を可能にするために結果的に新技術の開発が促進される傾向を反映しているのではないかと解釈されました。まさにデザイン駆動型のイノベーションと呼んで良いものですが、その動向はベルガンティの原著が公刊されるよりも早い時期に我々の調査で把握されていた訳です。

 ところで、ベルガンティの定義に従えば、デザイン・ドリブン・イノベーションには、技術進歩を伴わないタイプのイノベーションも存在することになります。それは前回お話した非技術的イノベーションの1類型として捉えることができるでしょう。ただ、そのようなイノベーションは、現行の統計調査では定義的にプロダクト・イノベーションとは認められず、マーケティング・イノベーションに含まれることになります。今後、デザイン・ドリブン・イノベーションの重要性が増していくならば、その実態を把握するために、統計上固有のカテゴリーを設けて調査することが望まれるかも知れません。

分野: イノベーションマネジメント |スピーカー: 永田晃也

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