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スマイルカーブ

目代武史 企業戦略、生産管理

18/07/19

 今日はスマイルカーブという現象についてご紹介したいと思います。
 1990年代頃から物の生産だけからでは利益が上げにくくなったと言われるようになりました。特に完成品の組み立てから得られる付加価値が減ってきたと言われています。その代わりに付加価値が高まっていったものが、炭素繊維やセラミック、液晶画面に使われる特殊フィルムといった先端素材、さらには製品の設計や試作の業務です。あるいはマーケティングや流通、アフターサービス、金融といった部門も付加価値が高まったと言われています。
 組み立ての付加価値が低く、上流の研究開発や素材、もしくは下流のアフターサービスやマーケティングなどの付加価値が高くなるという現象を絵で表すと丁度両側の唇がキュっと上がったような笑顔にみえます。このことからスマイルカーブと言われるようになりました。

 このスマイルカーブという現象を最初に指摘したのは、台湾にあるパソコンメーカーAcerのスタン・シー会長です。1992年頃に提唱したと言われています。同社は、低価格パソコンの組み立て受託で成功した会社です。パソコンが誕生した当時は、パソコンは花形商品で付加価値は高かったのですが、段々とパソコンの設計が標準化していき、生産プロセスも確立され、パソコン組み立てに参入する企業がどんどん増えていきました。パソコン自体も段々とコモディティ化していき利益が出しにくくなっていきました。それとは対照的にパソコンに搭載される中央演算装置やメモリー、液晶画面などのデバイス類やWindowsやOfficeなどのソフトウェアの付加価値が上がりました。このようなコンピューター業界における付加価値が組み立てとデバイス、組み立てとソフトウェアといった具合に両極化が進んでいき、いわゆるスマイルカーブ化が進んでいきました。そのことをスタン・シー会長がスマイリングカーブと名付けたわけです。
 もしスマイルカーブが正しいとすると、経営者は何をすべきでしょうか。より高い付加価値を目指すためには、素材やデバイスなどの川上の領域に進出していったり、あるいはアフターサービスや金融サービス、あるいはコンテンツなどの川下の領域に進んでいったりということになります。
 しかし問題は、果たしてスマイルカーブが本当に存在するものかどうかです。ポイントは、スマイルカーブがあくまで現象だということです。つまり法則ではありません。法則であれば常に成立しなければならないものですが、現象はそうではありません。例えば、雨の日の後に必ず虹が見えるかというと、適切な気温や湿度、光の具合などの気象条件が揃った時に限られます。スマイルカーブも実は同じで、常に両側の付加価値が上がった形になるわけではなく、ある条件が揃った時だけそのような現象が見られます。元々スマイルカーブという現象を提唱したスタン・シー会長自身は、このことをよく分かっていました。彼自身は、何故このような現象になるかということを次のように説明しています。
 まず、マイクロプロセッサには、技術の蓄積やブランドの構築に非常に長い時間がかかります。液晶画面やDRAMもそうですが、巨額の設備投資が必要で参入障壁が高くなります。要するに、技術力が必要で参入障壁が高いということは、その業界には限られた企業しか存在できないということです。一方で、コンピューターの組み立ては、誰にでも出来るようになっていたために過当競争が生まれて利益が出にくくなりました。下流領域は、マーケティングやブランディングが重要な役割を果たします。例えば、ナイキのシューズは中国やベトナムで生産されていますが、高値で売れるのはブランド力のおかげであり、これは誰しもが手に入れられるものではありません。
 要するに、誰にでも出来て参入障壁が高いものはスマイルカーブの真ん中だろうが両端だろうがカーブは下向きになるということです。その業界にどのような力学が働いているのか、どのような経営資源を持っているのかによってスマイルカーブの形は、スマイルにもなるし口角が下がった困り顔にもなるということです。

 今日のまとめ:スマイルカーブとは価値連鎖の両側、つまり上流の研究開発や素材、デバイスといった領域と下流の販売やマーケティング、アフターサービスといった流通領域で付加価値が高くなり、真ん中の製造領域の付加価値が低下するという現象です。台湾のコンピューターメーカー、Acerのスタン・シー会長が提唱しました。しかし、スマイルカーブはあくまで現象です。法則ではない点に注意が必要です。重要なのはカーブの形状そのものではなくてカーブの背後にあるメカニズムということになります。良く知られた流行言葉であるほど、本来の意味が忘れられるという良い見本がスマイルカーブ現象と言えるのではないでしょうか。

分野: 企業戦略 |スピーカー: 目代武史

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