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イノベーションの専門家が集うISPIM(その2)

高田 仁 産学連携マネジメント、技術移転、技術経営(MOT)、アントレプレナーシップ

18/07/25

【今回のまとめ】
・ISPIMでの講演者の発表内容を俯瞰してみると、近年のイノベーションには、技術革新の積極的な取り込み、エコシステムの形成、失敗と挑戦を繰り返す中から真の顧客価値を見出すことの重要性、が浮かび上がってくる。

・前回は、イノベーションの専門家が集まる国際カンファレンスISPIMの概要について紹介したが、今回は、プログラムの中の基調講演や学術発表、ワークショップの内容を、(1)技術革新、(2)エコシステム、(3)失敗と挑戦、の3つの切り口から整理して、近年のイノベーションに向けた取り組みの傾向について考えてみたい。
(1) 技術革新(デジタル化)
・3日間に登壇した企業のエグゼクティブや大学教授から、近年は技術革新(特にデジタル化)が急速に進み、それによって人々の課題解決の方法やスピードが従来と比べて大きく変化している点が強調される場面が多かった。
・例えば、ストックホルム市議会のイノベーション&e-ヘルス担当のコミッショナーは、「過去の古い技術に基づくヘルスケアの仕組みを取り除いて、デジタル・ソリューションに置き換えるべき」とか、「遠隔医療の診療報酬は直接面談の報酬と同一にしてパイロットプロジェクトを進行中だ」とか、「オンラインで健康状態を把握したり、過去の診療履歴をデジタル化してスムーズに次の診療に活かしたり、オンライン予約やオンライン処方、カルテのオンライン化が全ての医療提供者の義務となるべき」、「そのために、デジタル・スキルに対する投資をしっかりと行うべき」といった点を強調して述べていた。
・特にデジタル面ので技術革新が大きく進展したことに伴って、システム投資のコストも劇的に下がる傾向にあり、よりイノベーションに取り組みやすい環境が整ってきている点は重要である。
(2) イノベーション実現のためのエコシステム
・基調講演や学術発表のなかでも、「イノベーションのためのエコシステム」という言葉がかなり頻繁に登場していた。
・従来の顧客への価値提供が、単体の製品→サービス→プラットフォーム・・・へと移行してきており、このプラットフォームでは、自社だけでなく他社との協業によって顧客価値を高めることが欠かせなくなっている。分かりやすい例としては、スマホのプラットフォーマーであるアップル、フェイスブック、グーグル等が、それぞれに協業のエコシステムを形成することで顧客の利便性や価値向上に寄与していることが挙げられる。
・異なる組織が連携しようとすると、価値観や言語の違いによって、連携の仕組みを作るだけでも多大な労力と時間を要してしまう。エコシステム形成の意味は、共通の目標や価値観・ルールをいち早く提示することによって、多大な調整コストを削減しながら、単独組織では実現できない高い価値を創造できる点にある。その意味で、エコシステムをスムーズに形成できるか否か(そのための構成メンバー間の信頼や共通ルールづくりのスピード)が、企業や地域の競争力に大きく影響する時代になったといえる。
(3) 失敗と挑戦の価値
・初日の基調講演では、LEGOグループのエグゼクティブから、LEGOハウス(子供たちが、レゴを用いた未来の都市づくりに参加し学ぶ施設)の子供のエクスペリエンス・デザイン(=子供たちが自分の好奇心に基づいて都市づくりの課題を理解しつつアイデアを形にするプロセスをスムーズに実行するための仕組み)に関する講演があった。このデザイン・プロセスは、理想的なゴールが何なのかもまだわからない中で始まっており、まさにイノベーティブな取り組みだと言える。この過程で、開発チームは何度も試行錯誤を繰り返しながら、徐々に自分たちが実現すべきゴールを見出し、最終的な形に仕上げていた。この講演のなかで、英語でiteration(反復、実験的な試みを何度も繰り返すこと)という言葉が何度も使われていたのが印象的だった。
・また、会場の一角には「失敗の殿堂博物館」のコーナーが設けられ、「コカ・コーラ・ブラック(炭酸飲料のコーヒー)」や「ニュートン(アップルが1993年に発売した手のひらサイズのコンピューター)」などが展示され、様々な失敗から学ぶことが重要だとのメッセージが発信されていた。
・ISPIMとは関係ないが、KTHの教授と話した際に、「20年前のスウェーデンでは、失敗者は街を去っていったが、今は全くその必要がない。むしろ、失敗の経験から学ぶことが重要だという共通認識が出来上がっている」とのことだった。

分野: 産学連携 |スピーカー: 高田 仁

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