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ドラマ「陸王」に学ぶ会社は誰のものか

金子浩明 テクノロジーマネジメント、オペレーションズマネジメント、日本的経営

18/06/22

今日は、「会社は誰のものか」ということについてお話します。

会社は誰のものでしょうか。ビジネススクールでは、株式会社は株主のものと教えています。
では、FM福岡は誰のものでしょうか。FM福岡は株式会社ですから、先ほどの話で言うと「株主」ということになるでしょう。しかし、FM福岡はリスナーやスポンサー、また社員やスタッフといった作り手がいないと成り立たないということを考えると「皆のもの」とも言え、「会社は誰のものか」というのは、なかなか難しい問いです。

では、「会社は誰のものか」という問いを「会社の主権は誰が担うのか」と言い換えて考えてみましょう。主権は3つに集約されます。
まず1つ目は、そもそも会社の政策(戦略や方針)は誰が決めるのかという視点です。当然、主権を持っている人がまず決めるわけです。次に、会社の利益は誰のものなのかという視点があります。最後に、経営者は誰が選んでチェックするのかという視点です。主権をこの3つの視点から考えると、リスナーはこの中には含まれないですね。この3つの主権に当てはまる人が企業の主権者であり、「会社が誰のものか」の答えになるわけです。

次に、主権者になる資格について考えてみたいと思います。誰が主権者としてふさわしいかというと、一つは企業が生まれるのに不可欠な資源を提供している人、資金提供者であるということが資格のひとつと考えることが出来ます。次に、「労働力」が必要です。実際に様々な仕事を担う人(社員)がいて初めて放送が可能になる訳ですから、お金だけでは企業は生まれません。最後に、資金提供者であるためには、すぐに資金の返金を求めるのではなく、その会社の業績、会社の様々な浮き沈みに対してリスクを被り、たとえ業績が悪化しても簡単に逃げ出さずに会社と共にいるということも重要なポイントです。資金を提供しても、すぐに返金を求めるようでは、単に金を貸しているだけにすぎません。簡単に逃げられず、リスクを被るという点では、株主はあてはまります。株価が下がってしまった時に、株を売却することはできても、実際にリスクを被るわけです。そして従業員も同様です。業績が悪化してもっともリスクを被るのは従業員でしょう。
これらのことを踏まえると、この「主権者は、株主」であるというのが教科書的な回答ですが、会社が変わって困るのはむしろ社員です。特に日本の場合、多くの大企業の場合、新卒から60歳代くらいまで一つの会社で働くわけですから、株主以上にリスクを被り、会社にコミットしています。そうなると、本当に株主が主権者なのか、株主も主権者だけれども、むしろ従業員の主権の方が強いのではないかといえます。
そしてこれは日本の特徴でもあります。商法上、建前は株主主権ですが、実際には従業員主権です。社長が偉いということは多くの会社員が感じています。ただ、その場合、基本的に従業員の代表である経営者が支配する企業という形になり、従業員主権であることに変わりはありません。従業員は実際に「主権者」ですが、多くの会社は新卒で入った従業員がその延長線上で社長になることが多いです。

最近「プロ経営者」という言葉を耳にします。「プロ経営者」とは、ヘリコプターみたいに上からいきなり経営者で降りてくることを言います。日本では、そういうケースは少なく、どちらかというと新卒で入社し、その後数々の競争を勝ち抜いて社長になるという場合が主です。そのため、給料も新卒の延長線上にある場合が多いです。そうすると、経営者が偉いということは、従業員が偉いということとほとんど同じ意味ことを意味します。そのため、従業員主権企業の多くは、経営者支配企業という形になりがちです。ただし、そうした企業の場合に困るのは、経営者が自分の得になることばかりして、株主をないがしろにする危険が出ることです。例えば、株主にとって不都合な事故を隠ぺいするなどがあります。そういう時には株主は、声を上げる必要があります。しかし、株主1人の影響力は微力のため、なかなか個人の株主の意見を聞いてもらえません。そうすると結局経営者支配的な企業になっていくわけです。そのためにどうすればいいのかというと、社外取締役を選びます。外から株主の立場で経営の健全性をチェックしてもらうわけです。制度上はそういう制度を整えることによって、従業員主権に偏りすぎることなく、株主主権を実現することが出来ます。

では、会社は株主のものとして、株主が賛成したら会社を売ることができるでしょうか。
実際に株主主権の場合、株主の同意が得られれば会社を売買することができます。しかし、気持ちは従業員主権です。従業員にとって会社は自分達のものであり、勝手に売ったり買ったりされては困るわけです。

ここでドラマ「陸王」の話をご紹介したいと思います。
ドラマ「陸王」では、役所広司さん演じる足袋メーカーこはぜ屋が、松岡修造さんが演じる大企業フェリックス社社長から買収を持ちかけられます。資金難のこはぜ屋にとっては悪い話ではありませんでした。しかし、宮沢社長は買収の申出を断ります。それは正に従業員主権だからです。彼はこう言います。「100年の歴史を持つこはぜ屋ののれんはそんなに軽いものじゃない」と。ただ、松岡修造演じる社長はいわゆるエリートで、「のれんや老舗というと耳に心地がいいけれど、そこに価値があるとしたら現時点でも成長し発展していないと意味が無いではないか」と、実態がないのれんなど意味が無いというふうに切り返します。しかし、それに対して宮沢社長は、社員の中には会社を第二の家だと言ってくれる人もいると反論し、値段が付かなくても価値があるんだと、こはぜ屋100年ののれんに値段なんて付けられないんだというふうに怒ります。そして買収交渉は決裂するわけです。まさにこれが会社は株主のものではなくて、社員のものであって、値段が付けられないものだということです。こうした話はこはぜ屋みたいな中小零細の老舗企業に限った話ではありません。株式会社であれば、商法上は株主主権ですけれど、働く従業員や従業員の代表である社長の意識は株主と違う場合があります。これにはメリット・デメリットがあります。メリットは従業員のコミットを引き出しやすいということ、そしてデメリットは株主の主権が脅かされてしまう点です。

では、今日のまとめです。
今、日本企業のM&Aが増えています。ルールは株主主権、意識は従業員主権の場合なかなか統合が進まない場合があるでしょう。武田薬品工業も大きなM&Aを発表しました。答えはありませんけれど、こうした実態があることを理解しておくことが必要だと思います。

分野: 技術経営 経営戦略 |スピーカー: 金子浩明

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